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へえ、と気のない返事をする。俺は庭を見つめて口をつぐんだ。田島、という教師は、やたら独り言を言う。ぶつくさと言っている言葉の内容は、庭が奇麗だとか、腹が減ったとか、他愛のないことばかりだった。完全無視を決め込んでいると、冷たいなあ、と言う。そのまま何も話さずにいると、今日は楽しみだねえ、と言ってきた。
のりたくはなかったが、俺はその言葉に反応してしまう。
「楽しみって。別に何の変哲もないΩの授業ですよね」
俺がそういうのを、田島は違うよ、と言う。確かにコイツは、うちの教師のどいつとも違う雰囲気がする。うちの教師ではないのか?
「今日はΩとαの交流授業だよ。俺はα専門の教師。今日は生徒達も連れてきている。担任の先生がお休みだって聞いたから、代わりに今日は担任するつもりだ。西岡君もαの子たちと繋がりをもって、これから生かすといい」
俺は体中に虫唾が走るような感覚を覚える。Ωはαを番にする…それ以外の自由はないのか?俺達にはその権利さえもないと…
途端に心が暴発しそうな気がして、俺は言う。
「バカバカしい。そんなこと、やってられるかよ」
机を蹴って、教室から出て行く。それを田島と言う教師は茫然と見つめている。それから慌てて西岡君、と呼び止めてきた。ぐい、と掴まれた腕は力強く、俺はそれ以上前に進めなくなった。
「放してください」
「どうした?何か気に障ることを言ったかな?なんでも話してほしい、俺で良かったら力になれる」
どうしてもコイツの口調が許せない。許せないのに、全身がαに触られたことにざわついているのが分かってぞっとする。なんてこの身体は呪われているのだろう。
「気やすく触らないで下さい」
半ば叫ぶように言って、俺は教室を飛び出す。お祈りから教室にやって来る生徒たちを掻き分け、俺は田島から逃げた。人ごみに揉まれて、紛れていく後姿をあの教師が見ていたのかは、俺にも分からなかった。
白いシーツは毒のように身体を蝕んでいく。
横になってもちっとも眠れない。それもそのはず、さっき起きたばかりだ。でも胸糞が悪くて、身体は動かないし、心の中は自分に対する嫌悪感と絶望だけ。このまま、一体俺はどうしたらいいのだろう。
スマホも、何もかも取り上げられ文字通り監禁された俺達Ωは、こんな時でも外部と連絡が取れない。
正に鳥籠の中の鳥…
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