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ぼんやり目を開けると、そこには同じクラスの北原がいた。
「北原だよ、西岡君」
「…」
俺は自室のベッドにいた。あのまま、どうやら眠ってしまったようだった。
「俺…」
「αの先生となんかやらかしたみたいだね?本当に君はトラブルメーカーだな」
ああ。あの田島と言う教師の事か。最悪だった、あいつの言葉は偽善にしか聞こえなかった。
「別に」
冷たく答えると、北原は肩を竦めて言う。
「一昔前のツンツン女優気取っても、さ。せっかくのチャンスを、どうして無下にするの。僕らαに番にしてもらうよう今から約束できるってものだ。僕たちの人生は約束されたようなものだよ」
興味がない、ともう一度言う。その声は、自分から出たとは思えないほど弱弱しかった。なんでこんなに考え方が違うのだろう。これは、むしろもう洗脳ではないのか、と思う。
「僕たちは番にされることで幸せになれる」
「それは違う」
咄嗟に熱を込めて出た言葉を、北原は否定するべく声を荒げる。
「何故かという意味が君には分かっていない。僕たちΩの歴史を振り返ればすぐにわかるだろう。鈍感な君でも。君はΩの歴史をあまり知らない。それがその、意味の分からないプライドを作っているんだろう」
眼鏡をくい、とあげながら北原は続ける。
「男娼になりさがるしかない。Ωの本性はそんなものだよ。だからこそ、僕たちは節制を覚えなければならない。君は発情して男に抱かれたことがあるのか?」
あるよ、と言う自分の声が、酷くか細く聞こえた。北原はそれでなぜ、と続けた。
「あの抗えない感覚ー、君も分かっているはずだ、犯され続けるしかないΩの本能と性質を。愛されるべきは聡明なα。それ以外はあり得ない。それとも君は、βなんかと繋がる気でもあるの」
「じゃあお前は」
見つめている対象の、強く燃えるような瞳をじっと見据えて言う。俺のこの気持ちは、きっと俺だけのものではないはずだ。
「本当に心から繋がったことがあるか?身体で繋がっているのとは違う。もっと、もっと…」
心がちぎれそうな感覚。炎が燃えているような感覚。あの熱い、あの…
表現できなくて、黙り込む俺を冷たく見つめて北原は言う。
「俺には分からない。君は、やっぱり何か特別だと思うよ。でもほどほどにして運命を受け入れるべきだ。そう、俺たちはΩだ。周囲にこの穢れを移す訳にはいかない」
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