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3
αとの授業はどうやらあの時だけではないようだった。再びその時が来ると北原から知らされて舌打ちをする俺。基本的にはΩだけの授業なのだが、今後は一週に二回ほど合同授業が入って来るらしい。
勘弁してくれ、じゃああの教師もその時に顔を合わす、ということじゃないか。あの田島という教師が苦手なのに、もう会いたくない。
ため息の中でも徐々に季節は初夏から夏の匂いに変わっていく。教室の外にある大きな白樺の木も、葉と葉が擦れ、その隙間から覗く日がキラキラと光って美しかった。
夏のなか、アイツは何をしているかとすぐ思いだしてしまう。だるさに閉口しているだろうか。甘いモノが好きなアイツは、アイスでも食べているのだろうか。
汗ばむシャツの前をはだけて、空気を送り込むようにノートで仰ぐ。
「西岡君」
後ろから声がするが、きっと北原だろう、面倒くさくて俺は無視を決め込む。
「西岡君、聴こえないのかい?そんなはしたない恰好をするべきではないよ」
「っるっせーな」
本当にコイツは母の様に小うるさい。
「お前と俺は違うんだから、いいんだよ」
「君はΩの生態を分かっていない。あと、αの生態も」
「αなんかほぼ会ったこともねーよ。こないだ来た田島って教師くらいだけど」
「なら尚更だ。慎みたまえ」
「…」
北原がここまで俺に構うのは、なんだろう。
「もうほっとけよ」
「別に僕が君をほっとけない訳じゃない。Ωとしての振る舞いを教えているんだよ、学級委員として、ね」
くそ真面目なこいつは、こうやって誰とも関わっていくのだろう。レイプされるのも分かる気がする。鼻っ柱を折りたくなるのだろう。
北原は忠告をすると、α混合授業の準備のためか教室を出て行く。どうやら準備物品があるらしい。
気が乗らなくて心がざわつく。何故こんなにも嫌なのだろう。田島に会うのが嫌だ。あいつの偽善な顔を見ると吐き気がする。自分がΩなことがとてつもなくダメな事のように思える。βに焦がれることも、太陽みたいなあの教師にとってはきっと天地がひっくり返る事なんじゃないか、そんな気がする。
はあ、と今日一日で最高の深いため息をして椅子に座りなおす。チャイムの音が響いて、学校の空気を張り詰めたものにしていく。がたがたと教室に戻ってくる生徒たち。その騒がしい音の中に紛れて、静かにあの男が教壇に立っていた。低くすがすがしい声で教師は言う。
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