記憶のその先

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朝、目が覚めるといつものように顔を洗い、歯を磨き、服を着替える。  クローゼットから服をとり、着替える中で違和感に気付いた。  なんて取りづらい配置なんだろう。  まるで私が置いたとは思えない。  そして家を出ると、そこには1人の男性がいた。  私はその人を見たことがなかった。  申し訳なさそうにする彼に私は「誰?」と尋ねた。  ショックを受けたような彼を見ても、心は痛まない。  何故、そんな深刻な顔をするのだろう。  それから自己紹介をして、携帯から写真を見せてくる彼はとても必死で、そこには私も写っていた。  けれど、写真を眺めながら彼の表情を横目に見ていた。  楽しそうな顔、怒った顔、苦しそうな顔。  コロコロ表情がかわる彼をなんとなく見つめていたかった。  まるでそうするのが当たり前のように。  説明を受けた私はどうやら彼とお付き合いをしていたらしい。  そして短期記憶障害を患っていて、記憶が毎日失われていくということも聞いた。  そして昨日のことを聞かされた。  私の部屋には彼を思い出すためのものがたくさんあったはずなのだ。  けれど、今日天井にもなにもなかったし、日記もなかった。  思い出せないことを伝えると、彼は「仕方ないよ、大丈夫だよ」と、申し訳なさそうに謝った。  それでも今日という1日は輝いていた。  それだけでも私は嬉しかった。  未だに信じられない話だけど、今のこの感情はきっと生まれるべくして生まれているのだ。  彼の運転する助手席で私は、悦にひたっていた。  家に送ってもらった私は部屋のゴミ箱から日記を見つけて、日付に合わせて繋ぎ合わせた。  そこには彼の表情に一喜一憂する私の姿が書かれていた。
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