第四十五話 海と砂漠

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数分の沈黙の後、セトは閉ざしていた口をようやく開き、ブツブツと何かをつぶやくと僕へと言葉をなげかけてきた。 僕とクロムの魂が元々ひとつであり、その魂は人類最初の男であり、人類の父とも言われたアダムそのものだと。 輪廻転生を繰り返しその魂は記憶を持ったままふたつに別れてしまったと。 予想だにしていなかった事実に僕はただ目の前の砂漠の神セトを見ていることしかできなかった。 「この話をクロムにはするな」 「なぜ?」 「お前らの元の魂がアダムだったという話はオリュンポスの連中がすごく嫌っている事だからだ」 「なぜ同じ神なのに対立をするんですか?」 純粋な僕の疑問にセトは中性的なその顔を歪めた。 眉間に深くシワができ、それだけで嫌な話題だと分かる。 「元々神はひとつの存在だった。全てを創り出した原初の神ガイア。その存在が後に世界を作り、神をも生み出した。原初の神から生まれた四人の子供が今神々たちが対立をする原因となった」 「だから貴方とクロムのポセイドンは対立をしてると?」 コクリ。と頷きセトは話を続けていく。 「長男はオリュンポス神の、次男はワセト神、三男はスカンディナヴィア神、四男は無名の神々の始祖だ。長男は原初の神の血を色濃く受け継いでいるから序列も上位だ」 その事実が気に入らないのか、セトは再度表情を変え、今にも人を殺しそうに目をギラつかせ僕を見ていた。 「だから貴方たち神はその容姿が似たような者が多いんですね。白髪に鮮黄色の瞳が……けどなぜオリュンポス神達は僕らの魂の話が嫌いなんですか?」 「あぁ、それは消されたクロムの記憶が戻ることを恐れてるからだ」 アダムの魂はいくら記憶を消そうとしても消えなかったと目の前の神は言っていたが、クロムは何一つ覚えていなかった。それは僕自身も同じだった。 何故なのかとぼんやりと考えていると、セトはチッと舌打ちをし、僕に向かって言葉を投げていく。 「オリュンポス達の目を誤魔化せるのもここまでだ。これ以上やれば流石に俺も天界へ強制送還される」 「ここは僕の心の中みたいなものなのになぜ?」 「それが神の力だからだ。どんな場所にも干渉ができる。シーランス、これだけは覚えておけ。お前の代償は欲望だ。地位、名誉、そして実の兄の命。だから力の使い所を考えろ、失いたくなければな」 そういうと僕の目の前は歪み、反射するように目を閉じ、次開ければそこにはセトのように純白の髪を靡かせるクロムが立っていた。 誰がどう見てもその姿は神そのもの。 考えるより先に僕は、セトの名を呼び力を貸すよう小さく呟いた。 そうだな。使い所をちゃんとわかってるじゃないかシーランス。とセトの声がすると頭の中に砂漠の神の魔法が次から次へと浮かんでいく。 まるで自分がセトになったかのように。
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