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俺らはあまり壊れていない家を今日の宿に決め、使えるものなどを探していた。
「そういえばお前の言っていた能力とはなんだ?」
俺は先程彼女が言っていた能力とに関して質問をした。
質問を投げかけるとあろうことか、彼女は落ちていた鋭いガラスの破片で自分の掌を斬り裂いたのだ。
飛び散る血と細々した肉片。見るからに傷口は深かった。
治癒魔法でも傷が塞がるかどうか分からないほど深い。
俺は少女の行動に驚きながらも、咄嗟に治癒魔法を使おうとするが、何故か彼女に止められた。
少女は、傷つけた掌を胸元へと持っていくと、魔力を集中させていた。
「何をしてるんだ。早く止めないと出血多量で……」
驚いていると、少女の傷口は眩しい光に包まれ、次第に塞がっていった。
それは俺ですら見たことのなかった魔法だった。
治癒魔法というものがあるが、それとは大分違っていた。
「今のはなんだ! 治癒魔法なのか?」
「いいえ、今のは私の生まれながらにして持っている能力、不老不死の力です」
「不老不死……物語の中でしか聞いたことがなかったが、こういうものなのか」
不気味に思いながらも俺は、彼女が自ら傷をつけた掌をジロジロと眺めていた。
「ところで貴方のお名前は」
「あ……。俺は今、クロム・オールドと名乗ってる」
「クロム…………私の名前はエヴァン」
「それがお前の名か? いい名だな」
俺が不意に微笑みかければ、何故か彼女は頬を赤らめ、目線を逸らしてしまった。
「今日は冷える。それでも着て暖を取れ」
「あ、ありがとう……ございます」
「ずっと独りだったのか?」
コクリと頷くエヴァン。
すぐに彼女は、俺が貸したコートを羽織り、暖を取り始めた。
沈黙が続く中、エヴァンは俺にある質問をした。
「あの国は貴方の国なの?」
エスポワールの話をされ、俺は表情を少し暗くした。
けど気にされないように、直ぐに表情を変え、質問に答える。
「あぁ、俺の国だった」
「そう……」
「滅ぼされたんだ十年前に。俺は奇跡的に家臣や護衛兵等と一緒に国を出れたが、父や母は」
「辛かったわね」
エヴァンは優しく俺の頭を撫でた。まるで小さい子供をあやす様に優しく。
彼女の行動に俺は目を大きく開け、驚いたような表情をした。
そんな俺の表情にエヴァンはクスリと笑った。
その笑顔は今まで見た何よりも美しかった。
「私、初めてこんなに笑いました。まだ早いと思いますが、貴方と会えて良かったです」
初めて。という言葉が突っかかるが、それでも楽しそうでよかったと俺は思った。
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