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気がつけば俺は暗い空間にいた。何も見えない、何も感じない、暗い無の空間に。
けれど耳を澄ませばどこからともなく、誰かの泣く声が聞こえくる。
「誰かいるのか」
暗く、何も見えない中で聴覚と嗅覚などの視覚以外の感覚を研ぎ澄ましながら俺は、誰とも分からない泣き声を頼りに足を進める。
徐々に近づいているのか、泣き声が大きくなっていくが一向に泣いている人の気配を感じる事はできなかった。
目を凝らしても完全な闇の中で俺以外の人間を確認することはできない。
この空間には俺一人しかいないのでは。と疑いながらも泣く人に聞こえるように呼びかけた。
「誰かいるなら出てきてくれないか」
俺のが呼びかけをするとさっきまで空間にうるさく響き渡っていた泣き声が止んだ。
しかし、泣き声が止んだだけで応答する者は現れなかった。
不思議に思いながら俺は、この空間に来る直前の事を思い出す為、ブツブツと独り言を呟いていく。
そして俺は、エヴァンにある程度を説明し疲れを取るために眠りについた。ということを思い出した。
「ここは夢……か」
夢だと気づくと俺は目を覚ますために、これは夢だ。今すぐ起きろ。と心の中で考えながら目を一度強くつぶる。
いつもならその方法でコントロールができていたが、今回ばかりは違った。いくら目を強くつぶろうとも、夢だと自分に言い聞かせても夢から覚めることはなかった。
「こんなのは初めてだな」
ため息をつきながらそんな事を言うと、ピタリと止んでいた泣き声が再びしだすと、徐々に大きくなっていく。
あまりの泣き声の大きさに俺は咄嗟に両耳を押さえる。
完全に聴覚を遮断するが、泣き声は脳内に直接響いてくる。
「うるさい! うるさい!! 黙れ!!!」
「なんでお前は……あの時、父様と母様を助けられなかったんだ」
声のする方へ振り返ればエスポワールが滅亡した日の俺が目の前に立っていた。
頭から血を流した十代の頃の俺が。
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