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死んだように倒れた青年を心配してなのか、ケスが顔を覗き込むと黒髪の青年の顔は真っ赤に染っていた。
酔っ払っているようだ。
「あ、その人酒弱いんだよ。まったく……この時期になると、いつも弱いのに酒飲むんだよねー」
ミネールがそうブツブツと文句を言いながら、青年の両方のこめかみを優しく触り、静かに魔法を唱えた。
「黒魔法、皇女の癒し」
そう唱えるとミネールの手が黒く、不気味に光ると、黒髪の青年は何も無かったかのようにカウンター席に座り直した。
「ミネール、あんた黒魔法の使いなのかよ」
「当然。だからお尋ね者の酒場の亭主なんだよ。この国では黒魔法は禁止されてるからさ」
ミネールが会話をしているのをいい事に、青年はテーブルの上にあるワインのボトルに手を伸ばすが、それはミネールによって阻止されてしまう。
取り上げられた未開封のワインボトルを青年は手で追うと、ミネールが口を開く。
「今日はもうダメですよ。皇女の癒しは連続使用できないんですから」
「…………別にいいだろ。お前には関係ないんだから」
「関係ありますよ」
「ミネールの知り合いなのか?」
寂しかったのか、ケスの友人、コットもカウンターの席に近寄りながら言うとコットはマジマジと青年の顔を見ていく。
「昔からの知り合いですよ」
「へーって、あんたその瞳……初めて見たよ鮮黄色の瞳」
ケスは青年の瞳をマジマジと好奇心の眼差しを向けながら、鮮黄色の瞳と呼ばれる青年の瞳を見ていた。
「えぇ!? この国でも皇帝しか確認されていない鮮黄色の瞳!? 」
驚くケスを黙って見つめる鮮黄色の瞳を持つ青年。
確かにその目はどの宝石よりも輝かしく、黄金に染まっていた。
「って言っても名前だけ知ってるんだよな。どんな意味があるんだ?」
青年がクスリと笑うと丁寧にケス達に、何故鮮黄色の瞳が凄いと言われているのか。その理由を話していく。
「鮮黄色の瞳はどんな瞳よりも魔力が高く、魔法の性能も高い人だけが持つ瞳だ。けれど、世界では俺を含め三人しかこの瞳を持っていないんだよ」
「へぇって! そりゃすげぇ。じゃあ、あんたも名の知れた魔導士なのか?」
青年はミネールと見つめ合い、二人して笑った。
そして青年は不敵な笑みを浮かべ、自分の名前を言い放つ。
「あんたらもよく知ってる名だ。俺の名前は、クロム・エスポワール。今はクロム・オールドと名乗ってるけどな」
その名にケスとコットは、声にならない驚き声を上げ、二人は一気に酒の酔いが醒めていく感覚を覚えた。
そう、青年はあの滅亡したエスポワールの王子であり、魔導士兵が追っている黒魔導士でもあったのだ。
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