第三話 罪と罰

2/2
前へ
/198ページ
次へ
 昔、人類がまだアダムとイヴしか存在していない時、神は彼らを楽園(エデン)に住まわせた。 楽園(エデン)は、お腹も空かなければ、喉も乾かない。争いもなく、常に平和な場所だった。それはまさに楽園と呼ぶにふさわしい場所だった。  そんな楽園(エデン)の中央には二本の木が生えていた。一つは生命の樹、もしくは命の木とも呼ばれる木。  その木になる実を食べれば、神に等しい永遠の命を得られる。    もう一つは知恵の樹、善悪の知恵の木とも呼ばれる木。  同じくその木にも実があり、その実を食べた者は、神に等しい善悪の知恵を得られるとされていた。  しかし、知恵の実だけは神のみが食べる事を許された木の実であり、人間であるアダムとイヴは食べる事を禁じられていた。  そんな楽園の生活も長くは続かず、楽園(エデン)中を騒がせた大事件が怒ってしまう。  それこそが女が魔法を使えないという罰を与えられた事件。   アダムの留守の間にイヴは、楽園(エデン)に住む一匹の蛇に唆され、禁じられていた知恵の実を食べてしまう。   その後主である神に知られ、アダムとイヴ、そして蛇は楽園(エデン)から追放されてしまった。 「その後、神はアダムにだけ魔法を教え、イヴにはその生涯で魔法を禁ずる掟を命じたんだ。その後その掟は枷となり、女達は身体に魔力を貯めれなくなったんだ」  クロムは一通り説明をし終えると少女を見た。  少女は少し頭の中で整理しながら、クロムに不服そうに言った。 「理不尽過ぎます。何故イヴだけが……女性だけが罰を受けるんですか」 「ちゃんと唆した蛇も罰を受けたよ。蛇から人間になった種族の国、セルパンの民も魔法は使えないよ」  セルパン。そうクロムが口にすると、何故か少女は急に黙ってしまう。  クロムが少女の顔を覗き込むと、先程も確認できた鮮黄色の瞳をじっと見つめた。   女性で魔法もつかえ、鮮黄色の瞳。   クロムは姿は違えどエスポワール先代国王、ルシェル・エスポワールと目の前の彼女を重ねていた。   けれど彼女は神の力を持っていた副作用のようなもの。目の前の少女は違った。   少女は神の力というものを持ってはいない。   じっと鮮黄色の瞳を見ながら、何故彼女が黙ったのかを聞いく。 「私、セルパンの生まれです」 「え…………はぁ!?」 「セルパンから来たんです。私」 「セルパンは今、出る事も行く事も出来ない国家だ。なのに何故ここにいるんだ」   少女は悲しそうな顔をしてクロムの質問に答えた。 「追放されました。私の能力と多分、魔法が原因で」   彼女の言う通り、セルパンの国民は魔法どころか、魔法具も操ることが出来ない。   そんな事から彼らは周りの国から距離を取り、鎖国をした。そんな国から突如魔法が使える少女が現れたら、いくら国民と言えど、追放したくなる。   セルパンの考えが分かってしまったのかクロムは、悲しそうな顔をする少女の目を真っ直ぐと見て言った。 「とにかく帰る所も行く所もないなら、俺と来い。一人でいれば必ずさっきみたいな事が起こるからな」   クロムは座る少女の前で跪き、彼女の手を取り言ったのだ。   まるでその姿は素敵な王子と可憐なお姫様のようだった。 「お邪魔じゃなければお願いします」 「そうと決まれば、さっさとここから離れよう」   まだ名も知らぬ少女の手を引き、クロムは城跡地から出ると、城下町へと向かった。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

212人が本棚に入れています
本棚に追加