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昔、人類がまだアダムとイヴしか存在していない時、神は彼らを楽園に住まわせた。
楽園は、お腹も空かなければ、喉も乾かない。争いもなく、常に平和な場所だった。それはまさに楽園と呼ぶにふさわしい場所だった。
そんな楽園の中央には二本の木が生えていた。一つは生命の樹、もしくは命の木とも呼ばれる木。
その木になる実を食べれば、神に等しい永遠の命を得られる。
もう一つは知恵の樹、善悪の知恵の木とも呼ばれる木。
同じくその木にも実があり、その実を食べた者は、神に等しい善悪の知恵を得られるとされていた。
しかし、知恵の実だけは神のみが食べる事を許された木の実であり、人間であるアダムとイヴは食べる事を禁じられていた。
そんな楽園の生活も長くは続かず、楽園中を騒がせた大事件が怒ってしまう。
それこそが女が魔法を使えないという罰を与えられた事件。
アダムの留守の間にイヴは、楽園に住む一匹の蛇に唆され、禁じられていた知恵の実を食べてしまう。
その後主である神に知られ、アダムとイヴ、そして蛇は楽園から追放されてしまった。
「その後、神はアダムにだけ魔法を教え、イヴにはその生涯で魔法を禁ずる掟を命じたんだ。その後その掟は枷となり、女達は身体に魔力を貯めれなくなったんだ」
クロムは一通り説明をし終えると少女を見た。
少女は少し頭の中で整理しながら、クロムに不服そうに言った。
「理不尽過ぎます。何故イヴだけが……女性だけが罰を受けるんですか」
「ちゃんと唆した蛇も罰を受けたよ。蛇から人間になった種族の国、セルパンの民も魔法は使えないよ」
セルパン。そうクロムが口にすると、何故か少女は急に黙ってしまう。
クロムが少女の顔を覗き込むと、先程も確認できた鮮黄色の瞳をじっと見つめた。
女性で魔法もつかえ、鮮黄色の瞳。
クロムは姿は違えどエスポワール先代国王、ルシェル・エスポワールと目の前の彼女を重ねていた。
けれど彼女は神の力を持っていた副作用のようなもの。目の前の少女は違った。
少女は神の力というものを持ってはいない。
じっと鮮黄色の瞳を見ながら、何故彼女が黙ったのかを聞いく。
「私、セルパンの生まれです」
「え…………はぁ!?」
「セルパンから来たんです。私」
「セルパンは今、出る事も行く事も出来ない国家だ。なのに何故ここにいるんだ」
少女は悲しそうな顔をしてクロムの質問に答えた。
「追放されました。私の能力と多分、魔法が原因で」
彼女の言う通り、セルパンの国民は魔法どころか、魔法具も操ることが出来ない。
そんな事から彼らは周りの国から距離を取り、鎖国をした。そんな国から突如魔法が使える少女が現れたら、いくら国民と言えど、追放したくなる。
セルパンの考えが分かってしまったのかクロムは、悲しそうな顔をする少女の目を真っ直ぐと見て言った。
「とにかく帰る所も行く所もないなら、俺と来い。一人でいれば必ずさっきみたいな事が起こるからな」
クロムは座る少女の前で跪き、彼女の手を取り言ったのだ。
まるでその姿は素敵な王子と可憐なお姫様のようだった。
「お邪魔じゃなければお願いします」
「そうと決まれば、さっさとここから離れよう」
まだ名も知らぬ少女の手を引き、クロムは城跡地から出ると、城下町へと向かった。
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