第15話 あなたに触れたい【春樹】

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第15話 あなたに触れたい【春樹】

 全速力で走った後のように激しく息が上がり、腰が甘く怠い。好きな人との性的な触れ合いの(こころよ)さに圧倒され、春樹(はるき)呆然(ぼうぜん)と天井を見ていた。前がはだけ、大事なところが全て晒されてしまっているが、気に留める余裕すらなかった。お湯で湿らせたタオルを持って来た岳秋(たけあき)が身体を拭いてくれ、神妙な様子で春樹の下着を戻し、はだけたシャツの前をそっと閉じてくれた。 「……大丈夫か? お前が気持ち良さそうにしてくれるのが可愛くて。止められなかった。ごめん」  彼に愛撫されてあられもない声をあげて見悶え、瞬間的に二度も絶頂に達したことを思い出し、春樹の頬は火を噴いた。 「ぼ、僕の方こそ、ごめん。……あっという間にイッちゃって。二回も」 「んー? 十代の健康な男子なら、そんなもんだろ」  全く気に掛けない様子で、岳秋は、床から拾い上げたマグカップからコーヒーを飲んでいる。彼の裸の背中に、春樹はおずおずと顔を寄せた。腕を前に回し、自分より一回り大きな彼の身体を抱きしめた。 「どうした? 甘えん坊だな、今日のハルは」  笑っている彼の瞳には、まだ熱が残っている。春樹は確信を持って、岳秋の中心に手を伸ばした。やはり、まだ猛っている。 「……触るなよ。ようやく鎮まりそうなのに。いいよ、俺は」  ソファから下りて膝をつき、岳秋のベルトに手を伸ばすと、困惑気味に拒もうとする彼と軽く揉み合いのようになった。 「僕も、アキに触りたい」  力では、大柄な義兄に勝てるはずがない。春樹は作戦を変えた。甘えた表情で見上げながら訴える。岳秋はウグッと言葉に詰まり、観念した表情で自分の手をおろした。 「……やめたくなったら、いつでも、やめていいから」  たどたどしい指でベルトを外し、ファスナーを下ろす。そっと包み込むように触れると、そこはぴくりと動いた。少し湿った下着の上から優しく形を確かめるように撫でると、硬さが増してきた。彼の呼吸は次第に荒くなってくる。下着をずらして直接触れると、岳秋は小さく呻いた。どれくらいの強さで触れば良いだろう。春樹は思いあぐねたが、自分を慰める時より少し弱めから始めることにした。自分でするより他人にされる方が遥かに刺激が大きいのは体験済みだ。彼にしてもらった行為を思い出しながら、先端から滲み出ている雫を掬って、その剛直に絡める。優しく扱き始めると、彼は春樹の耳元に口付けるように囁いた。 「……なぁ。ハルが自分でする時も、そんな感じ?」 「……っ」  春樹が頬を染めながら軽く睨むと、艶めかしい吐息をつきながら、彼は春樹の頬に小さくキスを落とした。 「ごめん、冗談。ハルにしてもらえて、嬉しくて。すごく気持ち良いよ。もう少しだけ強く握って、同じスピードで続けて」  言われるままに愛撫を続けると、岳秋はうっとりと目を閉じた。薄く開いた口が色っぽい。 (アキは、やっぱり大人だな……。人にされるのに慣れてる。自分をコントロールできない僕とは全然違う。でも、僕の手で気持ち良くなってくれて嬉しい) 「ん……っ、ハル、もう良いよ。ありがと」  眉間に皺を寄せ、岳秋が呟いた。手触りから、もうすぐ彼も達しそうだと分かった。それなのに止められて、春樹は少しムッとした。一方的にしてもらうだけなのは嫌だ。自分だって、彼を感じさせたい。 (そうだ!)  彼にしてもらったように、自分も口でしてあげよう。春樹が岳秋の中心に顔を近づけると、岳秋が苦し気に呻いた。 「あ……っ、やめろ。イキそうだ」  言うや否や、岳秋の先端から白濁が(ほとばし)り、春樹は、顔面でそれを受け止める形になった。 「ふっ、ぐっ、ゲホッ」  鼻や口に入ってしまい、春樹は()せた。岳秋は慌てて、さっきの濡れタオルで春樹の顔を拭った。 「だから、やめろって言ったのに……。イクの我慢してたんだぞ」  瞑っていた目を開けると、心配げに見つめている岳秋と視線が合った。 「……ぷっ」  小さく春樹は噴き出し、すぐに目を逸らした。デニムの前をくつろげ、下着からはみ出している岳秋自身は、力を失い垂れ下がっている。その状態にもかかわらず、自分を顧みず、春樹を心配してくれたことは嬉しいが、何とも締まらない格好だった。  春樹の反応の理由に気付いたらしい岳秋は、悠然と自分の股間を拭き、下着とデニムを戻した。その堂々とした様子に春樹が唖然としていると、岳秋はニヤリと笑った。 「最後までする時は、もっと恥ずかしいこと、いっぱいするからな? 覚悟しとけよ」  二人は顔を見合わせて笑い、春樹は、岳秋の胸に再度飛び込むように抱きついた。  好きな人と互いに身体に触れ合い、互いを気持ち良くさせることができた。エロティックなことをした直後だというのに、子どものように無邪気に笑い転げている岳秋を見て、心の底から春樹は安堵した。事件後、大好きな彼にすら触れられることを怖がっている自分に引け目を感じていた春樹にとって、抵抗なく肌の触れ合いができたことは大きな意味を持つ。  大好きなあなたに触れて欲しい。あなたに触れたい。  そう思えること、できること、気持ち良くなれること。  姉が亡くなった後に精神的ダメージを受けた時も、立ち直らせてくれたのは岳秋の温もりだった。自分も彼の役に立てているだろうか。その夜、自分の隣で小さく寝息を立てながら無防備な寝顔を見せている岳秋を見詰め、春樹の胸は温かな涙と幸せで満たされていた。
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