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彼が立ち去るのを待っていたかのように、隣の席から声がかかる。
「心愛さ。最近、志水くんと親しげじゃない? 何かあった?」
後ろで一つに結んだわたしの髪を軽く引っ張って、椅子を寄せながら含み笑いで話しかけてきたのは、仲の良い同僚の佐伯さん。化粧っ気のあまりないわたしのナチュラルメイクと違って、彼女はまつげのカールも毎日忘れないしっかり濃いメイクをしている。年相応のお姉さんみたいな存在。
「え? ないよ! ない、何もない!」
(だから、あんなに社内では話しかけないでって言ったのに)
わたしは動揺を隠しきれず、冷や汗が背中を伝うのがわかった。
キラキラネーム世代と云われるわたしは、佐藤心愛と何とも甘ったるい名前。そんなわたしに負けず劣らずキラキラネームの煽りを受けた感がありまくるさっきの彼は、志水亜斗夢という。年齢ではわたしより一つ下だが、会社では一年先輩になる。
中小企業に位置づけられるわたしの勤める会社は、躍進著しいと云われるIT企業。本社内では、部署が五つに分かれていて、わたしはデスク仕事が主であるマーケティング部に所属している。さっき話していた志水くんは、営業促進部。なので、つい最近までは大した接点はなかった。
そんな彼と話すようになったのは、あるきっかけからだ。
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