9.涙の片恋

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「あの、私たちそこまで批難してるわけじゃないのよ。これ読んだ限りではね。迷惑かけないんなら、一途にひとりの人を追いかけるってのもまあいいんじゃない。彼女のこれまでの経歴とか、教えてくださいよ。きっと詳しいんでしょう?」  そう言いつつこれまで一番批難している鳥越真理子さんは、懸命に松木さんをなだめた。この謎の後輩達にも何か事情がありそうだと理解してくれたのか、やっと松木さんが教えてくれたのは、こんな話だった。  郊外のお嬢様学校、白藤女子学園に通っていた桜木優子さんは、高三の秋、なんと突如杉山大生と駆け落ちした。一日で連れ戻されたとはいえ、某有名大学名誉教授のお祖父様、超大手企業役員のお父様は怒り狂い、その相手の学生を退学させるよう杉山大に圧力をかけ、また偶然この大学で教授の職に就いていた優子さんの大叔父様からも男を処罰する動きを起こさせた。ところが、学生の処分に関してそれはあまりに一方的で不当な弾圧であったため、当時の学生連合会長は意義を申し立て、事実関係を確認した結果、この学生に問題は無し、という結論を下し、大学の決定を覆したのだという。 「駆け落ち、っていうより、桜木さんが見合いをさせられそうになって、思い詰めて片想いの大学生のところに押しかけちゃった、ってことらしいんだな。恋人同士だったわけではなく」  はああああ。  話を聞き終え、全員ため息をついた。 「まさか、あの桜木さんにそんな過去が」 「そうだったの……何だかかわいそうねえ」  桃子と真理子さんが口々に言うと、恩田がええ、と不満そうな声を上げた。 「敵に同情するなよ」 「でも、ああ見えて情熱的な女性だったんだなあ」  東条部長までも気が抜けたような声を出した。
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