10.防衛戦

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 いにしえより奏でられてきた東欧の六拍子、ステップに軽く身を委ねて上半身は静かに揺れる。革製のダンスシューズの裏は釘で引っ掻いてわざと傷つけていて、滑りにくく足と地面が吸い寄せられるように馴染む。地面から離れ、また着陸し、足裏を擦るように回し、すべらかに、踏みしだくんでなく、音楽と身体の融和により優しく、自然に、動く。或いは動かない。  重美部長がかなり時間をかけて丁寧にコールをし、桃子は一生懸命「ドスパトスコ・ホロ(Dospatsko Horo)」というブルガリア、ロドピ地方の踊りを習った。こんな夏の明るい昼間に踊るにはちょっと暗い曲調ではあったが、神秘的で情緒溢れる人気曲であった。重美部長が踏む一歩一歩とても丁寧なステップを見ながら一緒に踊っていると、この暗い曲も悪くないと感じるのだった。  さて、例会も佳境に入った頃。土曜日なので授業が無く、事務室も閉まっていて、一帯はいつもより静かだった。そんな静寂を破って、開け放っていた窓の外から突如、破裂音が鳴り響いた。  パンパンパンパーン!  皆びっくりして窓の方を見る。と、その時! 「きゃー火事!」  もくもくと煙が押し寄せ、たちどころに建物の中が真っ白になった。 「外に出るんだ! こっち」  桃子は誰かに腕を掴まれて、何か蹴飛ばし転びそうになりながら、命からがら戸口に向かった。  けほけほけほ。煙にしては甘ったるい匂いにむせかえる。
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