6.女の子たちの事情

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「桃子ちゃんどうしたんだ。そんなにそれのショックが大きかったか」  重美部長は、ぼんやりと焼きそばパンを持って、口も付けずに黙っている桃子を心配して見ている。桃子は常々公言していたように、炭水化物を炭水化物で挟んだ焼きそばパンなど納得がいかない派だが、あまりにもぼんやりしていたので、自販機のボタンを押し間違えてしまったのだ。クリームパンの番号を押そうとしたはずなのに、気付いた時には後の祭り。ギャーと叫ぶ桃子の目の前で、ういーんという機械音と共に棚がスライドし、一番上の段から焼きそばパンが潔く落下してきたのであった。 「仕方ないねえ」  依田さんは自分のカツサンドを桃子の方に押しやる。 「そんなにがっかりしてるんなら、これと替えてあげるよ。差額の百円は今度カフェでコーヒーでもおごってくれたらいいから」 「コーヒーのが高いじゃないですか! ってか、そんなパンの話どうだっていいです!」  桃子は呑気なお二人にご立腹しながら、依田さんのカツサンドをほとんど無意識に奪い取り、かじりついた。  やれやれと依田さんは笑いながら、コピーした英語の論文を脇へ置き、焼きそばパンを食べ出した。 「いつもより機嫌が悪いですね」  部長が依田さんの方に寄ってひそひそと話している。 「ほら、女の子っていろいろあるから」 「は? いろいろというのは?」  桃子はため息をつく。
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