7人が本棚に入れています
本棚に追加
2
東条アキラは現在、新作長編小説『シラフの森』を執筆している。
それは、心に闇を抱えた者が迷い込む超現実的な領域、シラフの森をめぐる群像劇だった。ある種の極限状態を迎え、精神に異常をきたした登場人物たちが森に迷い込み、そこでふと、酔いから醒めるようにして正気を取り戻し(ゆえに素面の森というわけだ)、己の異常性を省みることで何かしらの気付きを得て元の生活に帰っていく──というのが話の基本構造となる。
だが物語中盤、ある女が森に迷い込んだまま帰って来なくなり、連綿と繰り返されてきた森の営みに乱れが生じる。そこで起きた何かによって、それ以降、森に迷い込んだ全ての人が現実世界に戻ることなく消息を絶ってしまうのだ。
消えた女の行方を追う恋人、失踪事件を捜査する刑事たち、ひょんなきっかけから捜査に協力することとなる民俗学者、森の噂を嗅ぎつけスクープを狙う記者、森の秘密を知る謎の少年。そんな人物たちが森と対峙し、己の闇と向き合い、クライマックスに向けて森の秘密が明らかになっていく。
霧に包まれた神秘的な森の描写や、謎に迫っていくミステリアスな展開には一定の手応えを感じていた。だがその一方で、最終的に大きな決断を下す登場人物の心理変遷に迷いがあった。だからこそ東条アキラは、勝手に動くキャラクターのダイナミズムを求めたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!