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 東雲(しののめ)モメとの対話はマトーネ・ス・マトーネの閉店後、駅前の喫茶店で実現した。麻素材のシャツとゆったりめのパンツを纏った彼女はその服装同様に余裕のある雰囲気を漂わせており、東条アキラが突然訪ねてきたことを考えれば、少々落ち着き過ぎている印象すらあった。 「東条さん、モンティ・パイソンはお好きですか?」  席についた彼女は唐突にそんなことを尋ねてきた。 「いや……イギリスのコメディグループでしたっけ?」 「そうです。わたし結構ファンなんですけどね、彼らのネタのひとつに『キラージョーク』というのがあって。すごく面白いんですよ。ある男が世界一面白いジョークを思いついて紙に書き留めるんですけど、それを読み返したら、あまりの面白さに笑い死にしちゃうんです」 「はあ……」 「それで、その男のお母さんだったかな? が男の死体を発見して驚くんですけど、近くに置いてあった紙を遺書だと思って読んじゃうんです。そしたらそのお母さんもあまりの面白さに死んじゃって。で、それから警察沙汰になるんですけど、警察のなかにもやっぱり読んじゃって死んじゃう人が出て、って感じでどんどん大事になっていって、最終的にはジョークが兵器化されて戦争に使われるんです。わたし、そのネタがすごく好きで。実は『Killertuned Planet(キラーチューンド・プラネット)』の元ネタもそれなんです」 「ああ、なるほど。聞いたら死ぬ兵器、ですもんね」 「そういうことです。ジョークの射程距離を測るくだりとか、すごく面白いんですよ」  そう言って彼女は、ふふっと笑った。 「あれ? ということはもしかして、あの話に出てくる特殊音響の正体もジョークなんですか?」 「まさか。作中では曖昧なまま終わるんですけどね、設定上はポップチューンってことになってます。あまりのダサさに聞いた人が死んじゃうんです」 「それは……明かさないのが正解かもしれませんね」  東条アキラは小さく笑った。彼女の思いのほか気さくな話しぶりに、怪しまれて然るべき彼の方が警戒心を解かされていた。
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