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次なる作戦決行だ
そうこうしてるうちに夜は更けていき、僕は暑く暗いクローゼットの中でまた眠りについた。やがて朝日は登り新しい一日が始まった。
「チビまた仕事行って来るからね。意地張って無いでお腹すいたら出てきてご飯食べなよ」
そう言って青年は部屋を後にした。
【よし、今だ。今がチャンスだ】
僕は青年が完全にいなくなるのを確認してから四日振りに暗く暑苦しいクローゼットから飛び出した。
まずは青年が用意してくれた缶詰のエサに飛びついた。缶詰で腹ごしらえしてからすぐ横の水を飲んだ。
青年は、僕が食べないと言うことをわかっているのに缶詰も水も毎日新しいものに変えてくれていた。
【フー、ようやく暑さから解放されたよ。死ぬかと思ったよ。しかしこの缶詰もなかなか美味しいじゃん】
僕は青年のいない部屋でくつろいだ。
部屋の隅っこには、段ボールに砂だけ敷いただけのお粗末なトイレも用意されていた。僕はそこで用を足した。
【フー、すっきりした】
腹ごしらえし、トイレも済ますと、青年の部屋を見渡してみた。まず目に入ったのは部屋に干された選択物だ。みれば男物の洋服、肌着ばかり
【こいつ、どうやら独り者みたいだな】
次に目に入ったのは、狭い部屋の割に結構大きな本棚に陳列された沢山の本だ。
まず最初に目に入ったのは
「絶対、行政書士合格」
「行政書士過去問題108」
「なるぜ!行政書士」
と言う本だった。
【こいつ、資格取得のため勉強してるのか。以外と努力家じゃん】
僕はくつろいだまま次の本に目をやった。
「長生きする猫の飼い方」
「猫の気持ちがわかる本」
「猫を飼うためにすること」
「かわいい猫との過ごし方」
そこには猫を飼うための教本がずらっと並んでいた。
【こいつ、僕を飼うためにいろいろ本を読んで知識をつけようとしてたんだ。案外あいつももしかしたら良いやつなのかも知れない】
ちょっとだけそう思った。
本棚のとなりのCDラックには、長渕剛のCDばかりが五十本ほど並んでいた。
【なんだ、全部長渕剛とか言うミュージシャンのCDじゃん。どんだけ長渕好きなんだよ。そう言えば確かあいつ名前剛って言ったっけね、剛繋がりって訳ね。しかし、かわいいアイドルの曲とか聞かないのかね。浜崎あゆみとか宇多田ヒカルとか、倖田未來とか、違う來未だっけ.....えーとどっちだっけ。まっいっか】
更に本棚に視線を戻すと、その隅っこにはニ、三本、ちょっぴりエッチなDVDが...
【...いや、そこは触れないであげとこう】
今度は本棚から目を外し冷蔵庫のそばの床に目をやると、猫用の缶詰が多数積まれていた。皆猫の好きそうな少し高価な美味しそうな缶詰ばかり。その横には猫用の先っぽに猫じゃらしが付いているおもちゃが置いてあった。
【こいつ、僕のためにいろいろ準備してくれてたんだ。やっぱり、もしかしたらあいつ良いやつなのかも知れない】
また、ちょっとだけそう思った。
【いや、それよりこの部屋がやはりどうにもこうにも問題だ。汚いし、狭いし、暑いし。ネズミとか出そうだしね、僕ネズミ苦手だし。ここには流石にいられないよ。早くお母さんのところに帰りたい】
僕はそう思い、青年が帰って来る前にまた暑苦しいクローゼットの中に隠れ込んだ。
【暑いけど少しの我慢だ。腹ごしらえもしたし、あいつが帰って来たら作戦決行だ】
こうして僕は青年が仕事から帰って来るのを待った。今回はそんなに長い時間クローゼットの中にいるわけではないとわかっていたので、暑さも暗さもあまり気にはならなかった。
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