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(やばいな、CATの店長には適当な返事をしてしまった。こんな六畳一間の風呂無しオンボロアパートで猫なんか飼えるわけ無いじゃねぇかよ。大家さんに聞くまでも無い。断られるに決まってるから。明後日は直接行って店長にきっぱり断ろう。だけどほんとに可愛かったなあの猫達、大家さんに黙って飼えばわからないかな。いやいやダメだダメだ。やはりキッパリ断ろう)
青年はその日部屋に帰りくつろぎながら、冷蔵庫から大好きなワインを取り出し、一口口に含んだ。
青年はいまどき珍しい六畳一間の風呂無アパートに住んでいた。しかも普通にあるアパートともまた違って、一軒家を何部屋かに分けた作りのアパート。当然、部屋にはトイレも無く、トイレは部屋の外にある共同トイレだった。そんなおんぼろアパートで当然猫なんか飼えるわけがない。
猫の可愛さに心打たれたのか、CATの店長の強面の顔の迫力に押されたのか、はたまた一人暮らしの寂しさからだろうか、案の定、彼はあの時やはり適当な返答をしてしまっていたらしい。はなからダメとわかっているので大家さんに聞くつもりなんて更々ないらしい。
青年は昔から自分の意見をはっきり言うことのできない気弱な人間だった。青年の無責任な返答は、何も今に始まったことではない。
そうこうしてるうちに猫を引き取りに行くと言う約束の水曜日がやって来た。
青年は気が重く、フラフラしながらも歩いて中古車屋へと向かった。
十分ほど歩き、CATの前まで来て青年はフーと軽く深呼吸をして、思い切って店の自動ドアを開けた。
「すみません、あの、やっぱり僕猫飼えないんで」
店長の顔を見るなり青年はそう言って頭を下げた。
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