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「郵便屋さん待ってたよ。さぁさぁ三匹の猫から一匹を選んでいきな」
青年が頭を下げるか下げないかのところで、彼の言葉にかぶせる様にオヤジはそう言って会社のカウンターに並べた僕と二匹のお兄さん達を指差し笑っていた。オヤジは青年の返事を待つまでも無く、勝手に青年に飼ってもらう気でいた。となりにいた奥さんもまたまるで店頭にいる売り子のようににこやかな笑みで青年の方を見ていた。
「一番上の子は大人しくて人見知り、二番目の子は元気いっぱいでやんちゃな子、三番目の子も大人しい子。さぁどの子にするんだい」
更にオヤジは話しをかぶせてきた。そんなオヤジの勢いに押され、気弱な青年は「実はうちのアパートでは猫は飼えないんです」と口から出かけた言葉を飲みこんだ。
「わかりました。なるべく鳴かないおとなしい猫を下さい」
本当は猫なんか飼ってはいけないアパートに住んでいる青年はオヤジに押されるがままにしどろもどろにそう答えた。青年は正直戸惑っていたが
「仕方ないや。おとといあまりの猫の可愛さに飼えます、なんて無責任にそう答えてしまった僕が全て悪いんだ。もうどうにでもなれ。猫なんて犬みたいに吠えないし、散歩で部屋の外に出すこともないから、大家さんにもとなりの住人にもばれやしないだろう。ばれそうになったら、逃してやればいいや」
ここでもまた青年の気弱さからくる無責任な性格が露骨に現れてしまった。
【僕はイヤだよ。絶対にイヤだ。あんたになんか飼われたくないよ。ずっとオヤジや奥さん、お母さん、お兄さん達とずっと一緒にいたいんだ。こうなったら青年の腕に噛み付いてやろうか】
僕は青年に飼われたくなかったけど実際どうすることもできなかった。となりにいたお兄さん達はこの期に及んでものんきにあくびをしたり毛繕いをしていた。
【もういいや、どうにでもなれ。僕が選ばれたらすぐ脱走してまたここに戻って来ればいいだけの話だ】
その時は、僕は本気でまたここに戻って来るつもりだ。
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