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やっぱり、こんなところじゃ暮らせないよ
そんな僕とお母さんとのやり取りを知ってか知らずかオヤジがまた口を開いた。
「おぅこの子に決めたか。ありがとう、ありがとう。早速タクシー呼んでおいたから抱っこして連れてってくれな。それとトイレのしつけはしっかりしておいたから。それとなるべく早めに去勢してあげてくれ。はい、タクシー代と去勢のための病院代」
と言ってオヤジは五千円札を青年に手渡した。
「いや、そんないいですよ。お金は自分で出しますよ」
「いいから、持って行きな」
青年がお金を受け取るのを拒否しようとしたが、オヤジはお構いなしに青年にしっかりと五千円を握らせた。
「すみません。五千円はしっかり返しますので...しかしこの子ほんとに可愛いっすね」
そう言って青年は僕の頭を撫でた。
「チビ、よろしくね。今日から俺がチビの飼い主だ」
青年はそう言って僕を抱え上げた。
【なんだよ偉そうに。しかし、チビって...もっといい名前無いのかよ】
僕はそう思いながらも、素直に青年に抱え上げられた。
やがてタクシーが到着し、青年はオヤジと奥さんにペコリと頭を下げ、僕は抱え上げられたままタクシーに乗せられた。
タクシーが出発する寸前、車中からCATを見てみたが、どの猫もみな何事も無かったかのように、いつもと変わらず走り回っていた。良く見みると、さっき部屋を飛び出していったお母さんがCATの自動ドアの前で、じっと僕を見送ってくれていた。
フッー
僕はため息をつき、やがてタクシーは出発した。
【お母さん...行ってくるね】
お母さんに一時の別れを告げた。
青年に抱っこされたまま車中の中で僕はいろいろと考えた。不安は確かにあったけれど
「いつでも戻っておいで」
と言うお母さんの言葉がずっと心の中でリフレインし、ある程度心にゆとりをもって考えることができた。
【お母さんが言ってた人間に飼われることの意味はなんとなく理解できたけど、よりによって頼りなさそうな中太りの青年って言うのが少し引っかかる。僕も一応男の子だから、どうせならやっぱり綺麗な女の人に飼われたかったな】
そんなことを思っていると、タクシーの運転手がおもむろに青年に話しかけた。
「お客さん、ずいぶん可愛い猫だね。お客さんが飼ってる猫かい」
【どうやら僕のことを言ってるみたいだな。そうだよ、僕は可愛いに決まってるじゃん。とても綺麗なお母さんに生まれたんだから】
ニャー
僕は青年の腕の中でタクシーの運転手にそう答えてやった。
「いや、飼ってると言うか、今もらったばかりなので、これから飼うんです」
青年は僕の頭を撫でながら運転手に答えた。
「そうですか。うちはね、猫を三匹飼ってるんだけど、みんなとてもやんちゃでね。いたずらばかりで困っちゃいますよ。だけど憎めないんだよね。猫って本当癒されるよね。可愛いもんだよ」
【いやいや、別にあんたの猫の話なんか聞いてないから】
ニャー
僕は運転手にそう言ってやった。
「ところで猫ちゃん、名前は何て言うんだい」
運転手がそう言うと
(そう言えばまだこの子に名前つけてなかったな)
青年はそう思いながらも
「チビです。いやいや.....チビじゃなくて.....とりあえずチビって呼んでますけど名前はまだ考えてません。これから考えます」
青年は運転手にそう言いながらもまた僕の頭を撫でた。
【だから、そのチビってもうやめてって】
ニャー
僕は青年にそう言ってやった。
車中の中、タクシーの運転手と青年との会話に僕も割り込んだ形で会話がはずむ中、五分ほどしてどうやら青年の住むアパートに着いたみたいだ。
「ありがとうございました」
青年はタクシーの運転手に一礼し、僕は青年に抱え上げられたまま部屋へ連れて行かれた。
青年はアパートの部屋の鍵を開け、僕を部屋に招き入れた。
「チビ、これからよろしくな。いや.....チビじゃなくて、名前はこれから考えるから、まずはとりあえずチビよろしくな」
青年は笑みを浮かべ僕にそう言った。
【僕はチビじゃないからな】
僕は不満気な顔で青年の部屋へ招かれた。しかし部屋に入った瞬間、僕は愕然とした。
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