1282人が本棚に入れています
本棚に追加
右手にジャムパン、左手にスマホ、首から下げるは双眼鏡。
そして人目のつかぬ茂みに隠れて隙間から顔を出し、俺はその時を今か今かと待ち続けた。
視線の先にあるは、ざっと3,4メートルくらいはありそうな校門。
ジャムパンをもぐもぐしながら、早く早くと胸をときめかせる。
この学校に、転校生がくると聞いたのは昨日のことである。
ホストのような出立をした担任が、昨日の終礼でサラッとそのことを伝達した。
俺はフワフワとした気持ちで寮の自室に戻った後、楽しみすぎてろくに寝ることもできず、双眼鏡のレンズを磨いたりしながら朝を迎えた。
そして、その転校生がやってくるのが本日。Today!!
既に、寮を出てここに潜伏してから、1時間程が経っていた。暦が春の今、暑さや寒さが辛いなんてことはないが、そろそろ目的のシーンにありつきたい。
副会長と転校生のKA☆RA☆MI!見たい!見ばや!!見まほし!!!
スマホの時計を見ると、時刻は8時ちょうど。…そろそろかな。
最後の一口のジャムパンを口の中に放り込み、右手を双眼鏡へと持ち替えた。
ここからは、一切の油断をせず、耳を立て、目をかっ開き、全集中の呼吸!
そしてついに、時は来た…!
「うおー!何だココ、門たっけえ…!」
門の鉄格子の向こうから、そんな声が聞こえる。
俺は双眼鏡を目に当て、そう叫んだ声の主を観察した。
モサモサの黒髪に、瓶底みたいな丸眼鏡。
うん、間違いない、あれは王道転校生だ!
その髪はきっとカツラで、眼鏡もきっとダテだろう。そしてその素顔は、金髪碧眼の可愛い系美少年に決まっている!
その王道転校生は、2,3度頷くと、鉄格子をよじ登ろうとし始めた。
うわー、王道だ!!けど、そんなことする人、本当に居るんすね…!wwww
と、その時。校舎の方からもう1人、人が歩いてくるのが見えた。
あっ、あれは…!!ktkr!!この学校の副会長だ!!名前忘れたけど、副会長だ!
副会長は、鉄格子をよじ登ろうとしている王道転校生を見て、慌てたように駆け出す。
「何をしているのですか!今開けますから、おやめなさい!」
「ん?もしかしておまえ…あなた、この学校の奴か…ですか!?」
王道転校生は、鉄格子越しに副会長を見て、下手くそな敬語を使いながら人懐っこそうな笑みを浮かべた。
それに対して副会長は、嘘くさい笑みを繕いながら頷く。
そして、副会長が門の脇の柱にあるスイッチを押すと、鉄格子は自動で開き始めた。
それを見て転校生は、「うおっ、スゲーっ!!」と言いながら目を輝かせ(たかどうかは分厚い眼鏡のせいで分からなかったが)、元気いっぱいのご様子だ。
最初のコメントを投稿しよう!