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「あはは、そうだね。実際にあったことじゃなくて良かったね、熱田君。」
「…はあ!?別に、影山が岡と何してようが、どうでも…」
「ふうん?"影山と岡が"じゃなくて、"影山が"、なんだ。」
「あ?それ何が違うんだ…?」
「別に?ただ、友達として2人が付き合ってるかどうかが気になるんじゃなくて、景明が誰かとどうこうなるのが嫌だっていうふうに聞こえただけだよ。
……まあ、僕の勘違いかな。変態らしいし?」
「なっ…!?」
熱田君は、急にカッと赤くなった。
変態だなんて不名誉なことを言った熱田君に、ささやかなる復讐……じゃなかった、ちょっとした言葉遊びをしながら、やらかしたなあと少し反省した。
ここは、僕と熱田君の部屋の共有スペース。
BLに関する妄想を呟くのなら、僕の自室ですべきなのに。腐男子であることを隠すのをやめたとはいえ、BLが好きではない人に妄想を聞かせるのは流石に気が引けるし。ちょっとしたやらかしだ。
さっき、影山君と赤裸々に勉強をしたせいで、少しタガが外れてしまっていたようだ。
気を引き締めないとね。
「さて、勉強を再開しようか。今からやるのは化学基礎で良いんだよね?」
「お…おう。」
僕が机に向かえば、熱田君は大人しく向かいに座った。
風呂の後少し勉強を見てくれないかと、熱田君に頼まれていたのだ。
「で、どこが分からないの?」
「この問題なんだが…」
熱田君はそう言って、問題集とノートを広げた。
「熱田君、もしかして化学式の作り方、自信ないんじゃないかい?」
「あ、ああ。」
「それなら、そうだなぁ……色んな解り方はあるけど……Caあたりまでの周期表は覚えてる?あと、電子式は書ける?」
「周期表は分かる。電子式って、…なんか、線みたいなので繋いだヤツ?」
「いや、最外殻電子を点で表したものだよ。OK、じゃあそこからね。」
「答えは、23molか?」
しばらく解説した後、熱田君に改めて問題を解いてもらった。
正解だと伝えると、少し安心したような顔をする。
勉強は苦手なのは間違いないんだろうけど、"解りたい"っていう気持ちはあるんだろうなと思った。
熱田君は、さらに問題集を開くと「あと、これも分かんねえんだけど…」と聞いてきた。
それに応える形で、正解しては次の問題、解説しては次の問題を繰り返す。そのうち、だんだんと熱田君の反応が、鈍くなってきた。
「さっき教えた電子式、覚えてる?」
「えっと…線で繋ぐヤツ…」
「それ、構造式ね。」
「あ、そうか。悪い。」
熱田君は申し訳なさそうに言い、問題に向き直った。
今日一日で知識を詰め込みすぎて混乱しているのだろう。目を泳がせながら、少し焦ったように問題文を読み込んでいる。
この状態では、頭に入る物も入らないだろう。
「熱田君、少し休憩にしないかい?頭を休めるのも、効率的に勉強する上で大切なことだよ。」
「……ああ。」
「ホットトマトジュース飲むかい?」
「あ?ホットのトマトジュース?」
「うん。」
「…いや、エンリョしとく。」
そう言う熱田君の顔には、「マズそう…」と書いてあるようだった。
心外だなぁ、ホットトマトジュース、温めたトマトジュースの味がして美味しいのに。
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