デジタルフットプリント

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———東京都・警視庁 ここにはとある部署が存在する。サイバー犯罪対策課。東京都の警視庁生活安全部にある警察組織だ。 サイバー犯罪対策課とは、サイバー犯罪、通称ハイテク犯罪対策として立ち上げた組織だ。 人数は他の組織と比べて、少なく編成されている。 そしてここ、警視庁サイバー犯罪対策課・第一サイバー犯罪捜査・情報係にはとあるホワイトハッカーが存在する。若き頃は、世界各国の政府からうちに来てほしいと懇願されるほど才能を持った、まさにホワイトハッカーの王様に当たる存在。 それが俺だ。 この情報係でも、一目置かれる存在であり、係内では神の領域とまで称されているらしい。なぜ俺がここにいるのか、と囁かれるのは日常茶飯事だ。 正直に言うと、俺は給料さえ貰えればどこでもよかった。ただ提示された給料の金額が言語が理解でき、話すことが出来る国の中だと、日本が少しばかり高かっただけだ。 後は、当時付き合っていた彼女にプロポーズするつもりでいたから、という理由もある。俺が日本に残ったお陰で、無事プロポーズは成功し、仲良く2人で暮らしている。元々は息子と3人で暮らしていたが、息子が大学生になったのを切っ掛けに今は2人暮らしだ。 俺はいつも通り、パソコンから目を離さずに、あちらこちらのデータベースを確認しながらコーヒーを一口口に含む。不正なアクセスがあれば、すぐに相手を突き止め取締り、たまに他の仲間に指導をしたり。そして仕事が終われば、飲み屋を何件もはしごして、家に帰る。そんな毎日の繰り返しだが、俺は別に不満は無かった。これほどの仕事量で高い給料が貰えるのなら、こんなの全然へでも無い。 俺はコーヒーを飲み干すと、また目を光らせてパソコンを睨んだ。 そして次の瞬間、心に何か違和感を覚える。 「ん?」 「どうした、卯月(きさらぎ)?」 ゴリラみたいな顔をした係長が俺に近づくと、パソコンを眺める。 そこにはごく普通の警視庁の秘密文書が保管されているデータベース画面が広がっていた。何の不備も見当たらない。向こうが画面をクラッキングして、その映像が流れている訳でもない。 「何だ、何もないじゃないか」 係長は「紛らわしいな」と言うと、また定位置に戻る。俺はそんな言葉耳も貸さずに、じっとパソコンを睨んでいた。 ———何かが可笑しい。 俺は手を動かすと、心に引っかかる「何か」を探るために、色々な事を試してみる。そして次の瞬間——— 画面に嘲笑っているようなトランプのキングのイラストが大きく現れた。 「データベースに残された秘密文書が何者かによって盗まれました!!」 「何だって!?」 係長が椅子から立ち上がり、目を大きく見開いた。 俺は声がする方を見て、それから係長を見る。データベースに残された秘密文書。かなり高いセキュリティで保管されているはずだ。簡単には入れないし、データ自体も色々と面倒くさい仕掛けが伴っていて、盗もうと思ってもその前に必ず俺らが相手を突き止める。 それなのに、今回は一切そのような前兆が無かった。 「全員直ちにデータを奪い、相手を突き止めろ! 急げ!」 「はい!」 辺りは一斉にピリピリとした空気感に包まれ、全員が懸命に手を動かしている。俺はその中にぽつんと一人、画面をじっと眺めていた。
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