デジタルフットプリント

3/6
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
さっきの違和感は、これと関係しているのだろうか。 何の変哲もないデータベースの画面。ただそこに現れているのは、まるで俺らを挑発しているような、嘲笑っているトランプのキングのイラストだった。俺は取り合えず、その写真を消す。15秒とかなり消すのに時間が掛かってしまった。時間稼ぎの為だろうか。周りを見ると、未だに写真を消すことに手こずっている奴が多くいた。 ———相当のやり手だな。 俺はそんなことを考えながら、本格的に手を動かし始める。 今から3年ほど前に、こんな話を聞いたことがある。どこかの国に「キング」と称される天才クラッカーがいると。性別は不明、年齢も不明、だがクラッカーとしての能力は世界一だ、と同じ業界の奴らは言う。 つい最近アメリカで起こった、同時多発サイバーテロも、キングが関連しているのでは無いかとの噂だ。 そして今回のこのトランプの「キング」のイラスト。俺にはこのイラストに見覚えがあった。そして他の奴らも、きっと同じことを思っているだろう。 天才クラッカー・キング。奴は依頼があれば、巧みな手口で、どんなネットワークにも相手に気付かれないように静かに侵入し、あっという間に依頼を遂行してしまう。そして最後には必ずトランプの「」のイラストを残す。 今回の件と、類似している。 「キングが襲ってきた……」 俺はそう呟くと、ちらりと係長に目をやる。いつもはゴリラみたいな顔で威圧を放っているが、今回の事態で威圧は全く感じなくなっていた。 ———さて、どうするか。 俺はデジタルフットプリントが無いかどうかを、画面上に現れたコードを眺めながら確認する。 「日本語……」 大抵の底辺クラッカーはコードにコメントを残すことがある。それで、相手が話す言語が分かるのだが、今俺の目の前にあるコードには日本語でコメントが残されていた。だがキングがコメントを残すとは聞いたことが無い。 どんなに用心深いクラッカーでも、必ずどこかに身元の特定に繋がるデジタルフットプリントは残す。だがキングにはそれが無いため、業界の中ではかなり厄介者だと言われているのだ。 それなのに、コメントには日本語が残されていた。 ———奇妙だ。 ———キングじゃないのか? いや、キングのことは世に知られていない。アメリカで起こった同時多発サイバーテロでも、聞いた話によればキングのイラストが現れたとのことだが、それは敢えてマスコミには発表せず、警察が秘匿しているそうだ。 だからキングのことを知っているのは、この業界の奴しか知らない。まさか、この業界の奴がキングになり澄まして、警視庁にサイバー攻撃を仕掛けたのだろうか。 警視庁には、俺がいるということは、ほとんどの業界の奴なら知っているだろう。それが分かっていて、果たして攻撃を仕掛けるだろうか。 「俺への、挑戦状……」 それはさすがに虫が良すぎるだろうか。いや、自意識過剰という表現の方が正しいかもしれない。 だが、それ以外にわざわざ俺がいる中、警視庁にサイバー攻撃を仕掛ける理由が分からない。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!