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// ただの大学生
そのコメントを読んだ瞬間、思わず「は?」と声に出しそうになる。確かに、キングのことを知ったのは今から3年前だが、それでもこれほどのハッキングの技術をそこら辺のガキが持っているようには思えない。
// 今、呆れたって思ったでしょ?
// 顔に出てるよ
俺はまたそのコメントを読んで、息を呑む。さっきから、まるでキングがすぐ傍にいるようだ。だが辺りを見渡しても俺を見ている奴はいないし、それらしき奴もいない。
そして一つの最悪な考えが浮かぶと、俺は「おいおい、まじかよ……」と呟いた。
// トリック、分かっちゃった?
俺は近くの防犯カメラに視線を向けると、向こうが嘲笑ったような気がした。
// ご名答
// 既に警視庁全体をハッキングしてまーす
砕けた文章で返ってきたコメントに、俺は心の中で舌打ちをすると、長い溜息を吐く。
// 率直に言う
// データを返せ
// ストレートに言うねぇ
// 嫌だよ
// だって取引してるもん
// 今回は大金が入るんだ
// 返せ
// 嫌でーす
俺はまた心の中で舌打ちをすると、ちらりと係長に視線を向ける。するとバチッと目が合い、俺はまた目を反らした。
// そんなに守るほどの秘密でも無いでしょ?
// 仕事だから守らないといけないんだよ
// 警察は大変だねー
// いいから、大人しく返せ
// じゃあ取引しよう
俺はまた手を止めると、首を少し傾げる。取引、という危ない匂いしかしない言葉に過剰に反応した。
// そんな顔しないでよ
// 簡単な取引だって
// どんな取引だ?
俺は不審な目で見ると、すぐにコメントが返ってくる。
// 俺と手を組もう
// 世界一のクラッカーとホワイトハッカーが手を組めば、怖いものなしさ
// そんなバカげた取引に乗るわけないだろ
// けっこういい取引だと思うんだけど
// お金もけっこう貰えるよ?
// 俺は自分のハッキングの能力を悪いことをするためには使わない
// どんなに金を積まれてもな
// カッコいいこと言うねー
キングがけらけら笑っているように見えるその文面に、俺は多少なりともいら立ちを感じながらも、貧乏ゆすりでいら立ちを外に放出する。キングからコメントが来たのは、それから数分した後だった。
// 俺は卯月さんと組めば、大金が手に入ると思ってる
// 今回の依頼金よりももっとだ
// だからこの取引を持ちかけた
俺はこう見えても、一応警察の人間だ。どんなに優れたハッキング能力を持っていても、どんなに大金を積まれても、俺は正義を貫く。絶対に悪には染まらない。
// 取引に乗らないなら、データは返さない
そのコメントを最後に、俺らが会話したデータはどこかに消えていき、ダークウェブのトップページが現れた。
———厄介な奴だ。
俺はふーっと長い息を吐くと、椅子の背もたれに体重を預けた。
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