デジタルフットプリント

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■□■ 「チェッ、やっぱり無理かー」 俺は椅子の背もたれに体重を掛けると、パソコンに映る卯月さんを見る。どうしようか迷っているような顔だ。俺はそれを見てくすりと笑うと、「困ってる、困ってる」と呟いた。 「さて、このデータどうしよっかなぁ」 俺はくるくると椅子を回しながら、考えると、酔いそうになったので、止めた。卯月さんには「依頼が来た」と言ったが、実際、依頼は来ていない。これはただの俺の暇つぶしに過ぎなかった。 「まぁ、そのお陰で卯月さんとも話せたし、いいけど」 俺はまたくるくると椅子を回しながら自分も回すと、また酔いそうになる手前で止めた。それからパソコンのキーボードに手を伸ばすと、滑らかにコードに文字を入力していく。 そしてぽんっと画面に、元通りになった警視庁の秘密文書が保管されていたデータベースの画面が広がった。 「暇つぶしだし、まぁいっか」 俺はそう呟くと、また椅子の背もたれに体重を預けた。 今頃、警視庁は大変な騒ぎになっているのだろう。だってあの「キング」から、データが素直に返されたのだから。何もいじってないし、コピーすらも取っていない。何の変哲もないデータにむしろ怪しみそうだ。 ———まぁ、それはそれでもいいかもな。 俺は微笑を浮かべると、それからまた卯月さんを眺める。案の定、卯月さんは驚いた顔をして、それからこちらを睨むように見ていた。周りは大パニックに陥っているのか、状況に脳内の整理が追いついていないようだ。 今頃卯月さんは、俺の行動を見て奇妙だとか思っているのだろう。 ——久しぶりに遊びたくなっちゃったんだよねぇ。 俺はくすりと笑って、画面に映る、俺からの奇妙な足跡に困惑している「父さん」の顔をじーっと眺めた。
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