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入所したての頃、色々な意味で気詰まりなこの「お茶会」に出席しないでいたら、不良入所者扱いされかかった。所側としては、「お茶会」に参加させることで入所者の様子をチェックしたいのだろうが、事情や障害のレベルが違う者をごっちゃに管理することで、入所者の尊厳を奪っていることには思いもよらないらしい。
メラミン容器に入った、ほとんど色が付いていない出涸らしの番茶と、安っぽいカステラ風の蒸し菓子が運ばれてきた。バナナ香料がたっぷり入った子供向けの菓子だ。 俺はため息を吐いて窓の外をみやった。どこかから枯れ葉か紙袋かが回転しながら飛んでいった。窓は断熱効果が高く、外がどれくらい寒いのか想像もつかないが、ぐったりするような温度と湿度の室内よりも、厳しい風が肌に刺さる戸外の方がどんなにいいか、と思う。
「こちら、空いてるかしら。」
「ええ。どうぞ。」声の主の方を見もせずに返事をすると、ギイと音を立てて隣の椅子が動いた。
「あら、こんなところで『ヴェニスに死す』を読むだなんて趣味が悪いわ」
そこには無邪気に笑う老女の姿があった。
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