ラスト・ダンス

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 広間は大げさな拍手と歓声に沸いた。彼女は「やっぱり全然駄目ね」などと言いながらも、観客の輝く瞳を一身に受けて悪い気はしないようだった。 「みなさんはここまでのダンスは難しいでしょうから、これから絹子さんと相談して、やることを決めますね。」  後日、絹子さんのダンス教室は、パートナーを組んでの簡単なステップとターンをやってみる、ということに決まった。パートナーと聞いて、老人達は色めきたった。まるで中学生が席替えをしたり、フォークダンスをしたりする前のような浮ついた雰囲気だ。今までリハビリをさぼりがちだった者が、せっせと廊下を伝い歩きしている姿さえ見られた。じいさん達の殆どが、絹子さんとパートナーを組むことを期待していたに違いない。あの独演はインパクトがあったし、彼女は昔はさぞかし美人だったろうと思われる顔立ちだったからだ。
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