11人が本棚に入れています
本棚に追加
紗奈と片桐が相思相愛になった所で、俊江がふうっと息をついた。
「これで一件落着だね」
「そうですね」
独り言のつもりが、思わぬ場所から返事が返ってきて俊江は驚いた。
「なんだい、まだいたのかい」
「逝こうと思ったんですけどね」
そういう男の姿は、確かに薄くなっていた。もう妹を守らないで良いと、魂で分かったのだ。
「次のステージが待ってる。もう、安心してお行きよ」
「はい。紗奈は……妹は幸せになるでしょうか」
「なるよ。私の勘は当たるから、大丈夫」
俊江の言葉に、良かった、と鈴が鳴った。魂が昇る時、よく耳にする音だ。ついでに、ありがとう、とも聞こえた。
「さて、馬鹿な部長達の事を社長に言わなきゃね。紗奈ちゃん、アンタたちももうお帰り」
俊江は一つ伸びをして、タバコを取り出した。会議室を出て行く紗奈と片桐の後ろ姿を眺めると、再来年の春には子供の予感がする。守る側から、今度は守られる側になった、赤子ができる。
薄暗い夜空に一際輝く星を見つけ、俊江はいつか産まれてくる赤子と重ね、優しく囁いた。
「ぐつどらっく、だわよ」
終
最初のコメントを投稿しよう!