ぐっどらっく

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 小さい頃父さんが借りてきた映画を観て、僕は紗奈のボディガードになろうと心に決めた。だって格好良かったんだ。渋いおじさんのボディガードが女性シンガーを守るストーリーで、女性が気付かない内におじさんが敵をどんどんやっつけてるのが、最高に痺れた。  小学生の時に一度、紗奈が交通事故に遭いそうになった時、映画の真似をして紗奈を助けた事がある。あの日は人生で一番、僕がイケメンになれた日だと思う。それ以来その時の興奮が忘れられずに、紗奈の警護をしているだ。決して、ストーカーではない。  紗奈とは別ルートで駅に向かい、紗奈にバレないように同じ車輌に乗り込むと、いつもの定位置に紗奈がいた。その周辺も、いつもの場所に立つ顔ぶれが揃っていた。  しかし二駅を過ぎた頃、紗奈の背後に小太りの男が張り付いた。僕はすぐに分かった。この男は痴漢だ。深呼吸のフリをして紗奈の髪の毛の匂いを嗅いでいる。キモい。キモいぞおっさん。  怒鳴りたい気持ちをグッと堪え、痴漢の後ろを確認する。やつの後ろには、日傘を丁寧に巻いているギャルがいた。僕も痴漢の背後に立つ。僕は仕事柄(無職だけど)、気配を消すなんて造作もない。  電車の揺れに合わせて、痴漢が身体を紗奈に近づけていく。気を付けろ。紗奈に近づく度に、お前の最後も近づいているんだぞ。  痴漢が、紗奈の太ももに手の甲をわずかに当てた。紗奈はまだ気付いていない。きっと次のカーブで、痴漢は仕掛ける。電車がガタンと揺れたら、わざとを装って手を紗奈の尻まで動かすつもりだろう。  しかし、そんな事はさせやしない。  カーブに入り、電車が大きくガタンと揺れた。その一瞬を僕は見逃さなかった。痴漢の手が動くよりも先に、僕は隣のギャルの脇腹に誰にも気付かない速さで手刀をお見舞いした。  脇腹に何かの刺激を受けたギャルが、ぎゃっと反射的に腕を縮めた。その瞬間、ギャルの手にしていた日傘の先端が、痴漢の尻に勢いよくめり込む。 「うふぉぁぁぁ……ン!」  痴漢が叫び声をあげ、膝から崩れた。当たり前だ。かなり深く、すっぽりイッたからな。  尻を抑えて切なそうに涙ぐむ痴漢の姿に、どんな状況なのか何も知らないJkが「やばい。こいつ変態じゃね?」と、まあまあの声量で呟いた。それによって紗奈を含む周りの人間は、痴漢から一斉に離れた。  よし。今回も無事に紗奈を守ったぞ。  
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