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濃紺のスーツに襟元の詰まった清潔感のある白いブラウスを着て髪は後ろでひとつに纏めた。メイクも華美ではないが、元々パッチリとした目の一花はどちらかというと華がある。
一花は柳田と向井の前に堂々と立ち、丁寧に挨拶をした。
「本日より秘書課に配属になりました、野原一花と申します。至らぬ点などあるかとはございますが、早く仕事を覚え精進して参りますので、どうぞご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします」
秘書課とは名ばかりの、要は柳田と向井のサポート業務をする部署だ。以前は二人女性社員がいたが例のごとく辞めてしまい、今は一花だけが配属されている状態だ。
「こちらこそよろしくお願いしますね、野原さん。さっそくですが、仕事をお願いします」
向井は優しく微笑みながらも早々に鬼のように仕事を与え、柳田は値踏みをするように一花をジロジロと見た。まったくもって容赦ないし、失礼極まりない。
そして柳田は手を顎に当て、うんと軽く頷くと口を開く。
「野原……といえばお前、しんのすけだよな。おい、しんのすけ」
「…………は????」
呼ばれたのかどうなのかよくわからず、一花はすっとんきょうな声を出してしまった。
「社長、野原さんが困惑していますよ」
向井に冷ややかにたしなめられるものの、柳田はいたく気に入った様子で訂正する気もないらしい。
「あの、しんのすけって、もしかしてクレヨンしんちゃんですか……?」
「しっくりくるだろ?」
こねえよ!
と喉元まで出かかったのを、ぐっと抑えた。
状況についていけず、一花は目をぱちくりさせる。
柳田は満足そうに頷き、向井は呆れたため息を落とした。
異動初日早々これである。
一花がこの先の仕事に一抹の不安を覚えたのも仕方がないことだろう。
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