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◇
翌日の昼休み、私は里香ちゃんに声を掛けられた。
「せなっち、どうだった?」
「……ごめん」
「ごめん? どういうこと?」
「間宮君に訊けなかった……」
「うそ……だって昨日、ずっとクラブが終わるの待ってたんでしょ?」
「ううん、途中で用事ができて帰っちゃったの……」
私は嘘をついた。
声は震えるし、瞼はピクピクするし嘘だってバレバレだろうけど……
「せなっちは私のこと、親友だって思ってくれてないの?」
里香ちゃんは女の子が相手でも甘えたような表情をするのが上手い。
彼女の容姿はクラスの他の女子より一つ飛び抜けていて、男子の中でも人気がある。
「……ごめん、どうしても間宮君に引っ越しのことを訊くのは嫌なの」
お腹に力を込めて言う。
自分でも聞いたことのない、違う誰かの声みたいだ。
里香ちゃんは荒々しく、
「せなっち、よく分かったよ……その代り、もう私達に話しかけないでね」
と言って側にあった机を私に向かって思い切り蹴った。
その机は私の脛に当たり、痛みで思わず床にしゃがみ込む。
「いたっ! 何すんの、放して!」
里香ちゃんの声のする方を見ると、そこに間宮君がいた。
「お前、やりすぎだぞ!」
大きな声を上げ、間宮君は里香ちゃんの腕を掴んでいる。
「うるさいなぁ、ちょっとふざけてただけでしょ……」
「ふざけ合ってて、あんなことになるのかよ。ほら、見てみろ」
間宮君は里香ちゃんを無理矢理、私の側に立たせようと彼女を引き摺る。
騒ぎを聞きつけて、同じグループの女子が集まり始める。
クラスの男子は面倒に巻き込まれまいと、遠まきに見ているだけだ。
グループの女子の一人が間宮君の前に立ちはだかる。
「間宮、八つ当たりはやめなよ! あんたの家が滅茶苦茶だからって里香ちゃ――」
――気がつくと私は、その女の子を思い切りビンタしていた。
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