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◇
それから間宮君が私に個人的に話しかけてくることはなくなった。
きっとあの日、彼の中で私は『どうしようもない奴』という烙印が押されたんだろう。
人に見下されるのも慣れているし、間宮君に愛想をつかされたとしても特に落ち込みはしないだろうと思っていたけど――
予想以上に私は落ち込んでいた。
私は自らおどけて見せることによって、クラスの女子グループからも『ちょっと変わった子』というポジションで受け入れられ始めた。
「せなっち、超ウケる!」
「瀬名ちゃんといると飽きないよね……」
私は完璧に『笑われる』側の人間になってしまったけど、それでも影口を叩かれるよりはマシだと自分に言い聞かせていた。
ある日の休み時間――
「ねぇ、知ってる? ママに聞いたんだけどさ……間宮君、引っ越すんだって」
と思いも寄らないことを里香ちゃんが話し始めた。
(えっ!)
「……らしいね。でもさ、中途半端な時期じゃない? なんかあったの?」
そう訊かれて里香ちゃんは『待ってました』というような顔をする。
「なんかね……間宮君のパパが不倫してたんだって……」
「うそぉ!! で、間宮はママに着いていくの?」
「そうらしいよ……ママに口止めされてるから、絶対、内緒だよ……」
里香ちゃんの口癖――「絶対、内緒だよ」
『言いふらしてもいいよ』を意味する彼女の言葉が私は大嫌いだった。
「あのさ……」
「なぁに? せなっち……」
里香ちゃんは私の言葉が聞き取れないとばかりに机から身を乗り出す。
「……そういう話はやめよう」
私が思い切って言うと、一緒に話をしていたグループの女の子全員が目を丸くする。
いつもニコニコと黙って相槌を打ったり、おどけたりしている私が里香ちゃんに意見したからだ。
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