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教科書を鞄に入れて、帰る準備をしていると、
「冬花ー!帰ろっ!」
友達の片瀬美波がやって来た。
「うん、帰ろ」
「それにしても冬花、今日は災難だったね。あの先生の授業で教科書忘れちゃうなんて」
帰り道、美波が今日のことを話し始めた。
「うん……すごく怖かった」
「私も前に忘れたんだけどさ、言わなかったから授業中ずーっとビクビクしてたもん!でも案外バレないもんだよ」
「……そうなんだ!」
「そ。だから冬花、そんなに正直に言わなくても大丈夫なんだよ。もちろん正直なのは良いことだけどね!」
私が『馬鹿正直だ』と言われるのが嫌だと知っている美波はフォローを入れてくれる。
「ありがと。美波」
「ふふっ。いえいえ(*´∇`)」
――ガチャ。
「ただいま……」
家の中は相変わらずしんと静かだ。
いつもなら、なにも感じないその静けさだが、今日は違った。
――胸騒ぎがする。
何かが起こるかもしれない、心臓がやけに早く脈打つ。
だけど私はそれに気付かなかったふりをして、自分の部屋に向かった。
――ガチャ。
鍵の開く音。
「ただいま」の声で私は目覚めた。
どうやらベッドに突っ伏したまま、寝入ってしまったらしい。
いつも通りのどこか冷淡な母の声、だけど今日はどこか明るい色がにじんでいた。
「おかえりなさい」
私も部屋から出て、いつも通り返す。
私が「どうかしたの?」と聞く前に、
「ねぇ、話があるの」
と母は告げた。
――私は自室のベッドに突っ伏すと、
「はぁ……」
と長いため息をついた。
その日母が私に告げた話は、私にとって到底受け入れられそうにないものだった。
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