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プロローグ
☆――噓つきになりたい。
『――。噓をつくのはいけないことなのよ』
いつかの、声が聞こえる。
『正直者だったらいいってわけじゃないの!!』
また、だれかの声が聞こえる。
『本当のこと言わないでよ!!』
『嘘の一つも言えないの?』
たくさんの、だれのものなのかもわからない、声が聞こえる。
――どうすればよかったのだろう。
――嘘のつき方なんて、教えられて、ないのに。
★――正直者になりたかった。
『いい?――、人生にはね、嘘をついた方が上手くいくこともあるのよ』
あのときの、声が聞こえる。
『正直に言いなさい!』
あのひとの、声が聞こえる。
『ねぇ、何で噓つくの?』
『――の嘘つき』
記憶の中から、消し去っていた、声が聴こえる。
――嘘つきと言われようが、何と言われようが、嘘をつくしかない。
――だって、嘘をつくことしか知らないのだから。
嘘という、人に与えられた凶器もしくは利器。
――それは、例えばある少女と少年にとっては少なくとも凶器だった。
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