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部屋は想像以上に広く、ベッドも一人部屋とは思えないほど大きかった。
明日の仕事のことを考えると憂鬱だったが、それもこの部屋にいる間は忘れてしまいそうだ。さっと風呂に入り明日の朝いちばんの新幹線を予約してから、滝口は大きなベッドの真ん中に潜り込んだ。
マットレスは程よい弾力で滝口の身体を受け止める。
いっそ明日は有給をとって、時間ギリギリまでここで過ごすというのも良いかもしれない。
エアコンの音は静かで、隣の部屋からも何の物音も聞こえてこない。
「これなら夢も見ないほどしっかり眠れるかもな」
そんな滝口の独り言は、けれども実現しなかった。
明かりを落として目を閉じると驚くほどあっという間に、滝口の意識は深淵に沈んでいった。
深く深く、まるで温かい泥の底に引き込まれるように、滝口は眠っていく自分を感じる。
今まさに自分は完全に眠った。
妙に覚めた心の声がそう滝口に告げる。
ちょうどその時だ。
右の手のひらに突然鋭い痛みを感じた。
けれども目は覚めない。なぜならこれは夢だから。
まるで何者かが滝口の右手をナイフで抉っているかのようだ。それなのにただ痛みに耐えるだけで抵抗もできない。いや、抵抗しようと思いつくことすらできない。
なぜならこれは夢だから。
何度も、何度も繰り返される激しい痛み。けれど滝口はただの一度も、叫び声すら上げることができなかった。
そして痛みの後には必ず、心地よい温もりが訪れた。それはまるで傷口に温かい泥が染み込むかのような。その熱は滝口の痛みを癒し、溶けるような快感すらも与えた。右手から全身に、毒のように快感が浸食する。
寝ている間ずっと、痛みと快感は交互に訪れた。
それは悪夢のようでもあり、恩寵のようでもあった。
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