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早朝、滝口は目覚ましが鳴るよりも早くすっきりと目覚めた。
夢のことはハッキリと憶えている。悪夢の一種だとは思うが、意外なことに不快感はない。逆にいつもよりも良く眠れたという満足感があった。
顔を洗うときに水をすくった手のひらに、いつもと違う何かが見えた気がしてよく眺めてみた。右手を見れば夢の中での感触がまざまざと蘇ってくるが、もちろん現実にナイフで刺された傷があるわけではない。
ただ、よくよく眺めてみると、細いひっかき傷の跡のような赤い線がひとつあった。
もしかしたら昨日の仕事中についた傷だろうか。
これのせいであの変な夢を見たのかもしれない。
いや、本当に仕事中についた傷なのか?
もっと以前からあったのでは?
それとも本当に寝ている間にできたのかもしれない。ナイフで刺されて。
そんなバカな。
滝口は頭を振って、夢ではなく朝の支度に意識を集中させた。
豪華な部屋に負けず劣らず、ホテルの朝食風景の写真は魅力的だ。だが残念ながら食べていると始発に間に合わない。滝口は後ろ髪を引かれる思いでチェックアウトした。
フロントに立っていたのは昨日とは違い陰気な顔をした中年の男だった。
コンビニで買った朝食を持って、始発の新幹線に飛び乗る。今度こそちゃんと予約した席に座ることができて、ほうっと息を吐いた。
会社に遅刻するのはもう決定事項だ。昨日のうちに連絡は入れておいたし、到着するまではのんびり過ごすほかない。
弁当を食べ終わってスマホでニュースを見たりしているうちに、いつの間にか滝口はまた夢の世界に落ちていた。
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