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シャワーを浴びて、酒気を洗い流す。
酒は嫌いではないが、酔っていない方がもっと夢を楽しめるのだ。
手のひっかき傷の意味を知った時、滝口はベッドを大きなものに買い替えた。
睡眠こそが、一日のうちで一番素晴らしい時間だと思う。
その素晴らしい時間を、出来るだけ良い環境で迎えたい。
電気を消してベッドに入る。
真っ暗な中で、滝口は自分の右手を見つめた。人の目というのは思ったより高性能で、目が慣れてくると案外見えるものだ。
暗闇の中で、滝口の右手の引っかき傷が徐々に開き始めている。同時に刺すような痛みが右手を襲った。
開いた傷口の中には、まるで芋虫のようなものがうねうねと動いている。右の手のひらから肘のところまで、何十匹もの芋虫が不規則に動く。その動きに合わせて痛みは最高潮に達した。そして開ききった傷口はやがてゆっくり瞬きをするかのように閉じていく。痛みと入れ替わりに訪れた快感が、滝口の意識を溶かしていった。
眠りに落ちる。
深い、深い眠りに。
けれどその意識はどこか心の片隅で目覚めていて、それが一層多幸感を増すのは不思議なことだ。
三浦も今日はすばらしい夢を見ているのだろうか。
いつか共にこの幸福な時間を過ごすことがあればいい。
繰り返し繰り返し、刺すような痛みと溶けるような快感が右手から全身に広がる。
快感に身を任せながら、滝口はこの夢を、もっとたくさんの人に届けたいと思った。
深い深い夢の底で、はっきりとそう思った。
【了】
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