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彼女のオウチは森の入り口にあった。
ぼやけてよく見えない視界が、彼女のうでの中でゆれている。
けれどふしぎと、イヤな気持ちにはならなかった。
「ここが今日からのあなたのオウチよ」
オウチについて、まずはおふろに入るらしい。
彼女はお湯をわかすためにおふろ場にきえていった。
またひとりぼっち。僕をたすけようともせずに見下ろしていた雲が、気持ち良さそうに空をおよいでいる。
お庭では、かしこそうなカラスさんが僕を見つめていた。
《おや、新入り君だね。酷い弱りようだ》
ふと庭先で聞こえた声に目を向ける。
庭先のカラスさんが、ずいぶんとキレイな声で僕にはなしかけていた。
《けれど、もう大丈夫さ。魔女の手に掛かってしまえば、魔法ですぐに善くなるよ》
いつも暗い服をきて、こまったように笑う彼女のことを、庭先のカラスさんは「魔女だ」といった。
《魔女はね、黒猫やカラスを好んで使役するんだよ。だからご主人は、魔女に違いないんだ》
カラスさんが言ったとうり、僕をひろった人は魔女だった。
ただの箱からご飯を出したり、何もないところから火を出したり。
変な取手にさわっただけで水が出せる、すごい魔女なんだ。
何よりも彼女は、長い長い時間を、ゆっくりと生きる。僕たちが歳を取っても、彼女はずっと綺麗なまま。
その滝のような艷髪を少しずつのばして、歳をとる。
暗く、優しく。そのいい匂いのする髪がかたがわりする歳のとり方は、魔女と似てどこか美しいと、僕はおもった。
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