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弾丸は命中した。
二百五十メートルほどの距離があったが、標的は眉間に弾丸を受け、その場に崩れ落ちた。
隣で息を殺していた娘が、標的が倒れたのを見るや即座に駆け出そうとした。それを私は片手で制止した。
「いや、まだ安心してはならない。最近の奴らは頑丈になってきている。銃に弾丸を込めろ」
私たちは油断なくそれに近づいた。今回の獲物もかなり大きい。地面に飛び散っている白銀の液体は、獲物の血液だ。真っ白な胴体の腰のあたりには三つの首、背中には純白の翼。クモのような八本の脚は縮こまっている。
確かに死んでいるようだ。娘も同じことを考えたのだろう。そっと溜息を吐くのが聞こえた。
私はナイフを取り出しつつ、獲物を再度観察した。
「この顔は、ラインハルト爺とゲルトルード、それと兵隊のエックハルトだな……卵管はついていない。まだ成熟前だったのだろう。アガーテ、何度も教えているように、こいつの死体は高く売れる。これを売って、その金で弾丸を買わなければ狩猟ができない。解体は非常に重要な仕事だ。さあ、この間教えたようにやってみろ。まずは血抜きからだ」
娘は臆した様子もなく、涼やかな声で答えた。
「はい、父さん」
私からナイフを手渡された後、娘は無言で、順序良く獲物を解体していく。その光景を見て、私はほくそ笑んだ。良し、良し。アガーテは立派な狩人になった。黒髪の美しい、怜悧な顔立ちをした娘。こんな状況でなければ、誰かと恋をしていたのかもしれない。
これならば、独力で獲物を仕留めることができる日もそう遠くはない。
娘がここまで狩人として成長するには時間がかかった。それだけ、この狩猟は危険なのだ。
なにしろ、天使を狩るのだから。
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