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私はひとり静かなラブホテルの部屋の中で、彼が置いていった名刺を眺めていた。そこに書かれている店名をスマホで検索して、彼がとんでもない売れっ子だったことを知った。料金表に+の記号がたくさんついている。
「こりゃあ稼がなきゃ・・・」
そう呟いてくつくつ笑う私の頭から、あのメスの存在は遠ざかって消えていた。悲しみや憎しみは消えない。しかしそれは何か柔らかくて温かくて甘いものに包まれて、するどい形はとれなくなっていた。なまくらの刀のようになったモヤモヤを思い浮かべながら私は名刺を握りしめ、目を閉じた。考えても考えても、真剣な思考を邪魔するように甘くて馬鹿みたいな考えしか浮かばない。それがどうしようもなく情けなく、同時に頼もしかった。
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