星渡りの匣

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「永久凍土で眠っている方が、幸せだったかしらね」  リサは発掘チームの一員として夫と共にシベリアに渡り、調査に携わっていた。世紀の発見に大喜びしていた彼女も、興奮が冷めるにつれマンモスのつがいに情が移り、罪悪感を覚えるようになったらしい。 「細胞を保存しておけば、未来の人類が彼らを生き返らせてくれるかもしれない。百年後か、千年後か。マンモスの親子がまた凍原を闊歩する日が来るかもしれないなんて、ロマンじゃないか」  ホルプマン博士がそう言うと、リサは納得したのか、穏やかな表情を浮かべた。 「今の私たちにはまだ無理だけど……発掘したことで未来の可能性に期待できるようにはなった、と思えばいいのかしら」 「そうだな。彼らにはその時まで、もうしばらく眠っていてもらおう」  ホルプマン博士はマンモスの細胞の一部が保管されている冷凍庫を見やり、妻にウインクした。 「そういえば、NASAから近々重大発表があるらしいよ。先日の学会で話題になっていた」 「人類に現在足りない『天敵の襲来』についてかもしれないわね」  リサがいたずらっぽい顔で、宇宙人の存在をほのめかす。 「天文学者に言わせると、人類が滅亡までに地球外生物に邂逅する確率は絶望的らしいぞ」 「あら、専門家に予想できないことが起きるのが世の常じゃないの」
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