星渡りの匣

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「ンドゥーク、だめだわ。ここも塩水になってる」  泉の水を一口含み、レイラが厳しい顔で首を横に振った。  多少の塩分ならと思い、俺も口をつけてみる。飲めないほどの濃度ではない。だが、これを飲めば数分後にはさらなる喉の渇きに襲われるだろう。そう判断できる程度には、俺はまだ冷静さを保っていた。 「さっきの湖よりは塩分が低い気がする。もう少し行けば、真水にありつけるかもしれないな」 「そうね、進みましょう。暗くなる前に、休める場所も確保しないといけないし」  レイラは失望の滲む目を細め、自らを鼓舞するように顔を上向けた。  赤い西陽に横っ面を照らされ、俺たちは再び歩き始めた。足元から右側に、長い影が伸びている。少しでもレイラが体力を温存できるよう、俺は少し下がって自分の影に小柄な彼女を入れた。 「ありがとう、ンドゥーク」  隣に並んだ俺に、レイラが小首を傾げて微笑みかける。その笑顔は美しいが、つぶらな瞳の下には隠しきれない疲労が刻まれていた。
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