星渡りの匣

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 まるで人類がマンモスと同じ運命を辿ることを望んでいるような言い草だ。ホルプマン博士は笑顔で書類を片付ける妻の姿を見ながら、マンモスの夫婦に想いを馳せた。  彼らは互いに意思の疎通ができたのだろうか。何を見て、何を感じ、どんなふうに互いを想い合ったのだろう。ゾウがするように、体を寄せたり鼻を絡め合うような愛情表現のすべを持っていたのだろうか。  いつか未来の科学技術で彼らを蘇生できれば、それらの謎も解明できるかもしれない。 「そろそろ出なくちゃ。会食の約束は七時でしょう?」  妻に促され、ホルプマン博士は立ち上がって上着を羽織った。  窓の外には、淡いピンクから群青にグラデーションする空に、一番星が輝いている。電子機器の電源を落とすと、部屋はしんと静かになった。  ンドゥークとレイラ、そして彼らの仔どもの細胞は、冷凍庫に並べられた(はこ)の中で静かに眠っている。  リサは研究室の明かりを消し、優しくドアを閉めた。 「おやすみ」 【了】
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