2人が本棚に入れています
本棚に追加
第6話 幻のレシピ1 回廊の途中
目を覚ますと、目の前にレイカの顔があった
「大分お疲れの様子ね。それにお酒臭い。」
「ああ、久しぶりに寺山・・・お前が急性アルコール中毒に成りかけてた時に診断してくれた医者だ。まあー、覚えていないだろうけどな。そいつと飲んでいた。」レイカはフーンと言う顔をした後、慇懃に
「その医者って、噛み癖とか、キス癖とか有るの?男なんでしょう?」
「はあー、何を言っているんだ。」
「まあー後で、首周りを鏡で見てみると良いわね。キスマークが一杯付いてるから。」そーか、明子の仕業か、と思いながらも、口には出さずに居ると
「出かけたいのだけど、支度して頂戴。」
「何処ェ・・・」
「前に言っていた、レシピの料理を食べに行くの。えーと、それと少し長く歩ける格好にして。」
「長く歩ける?」
「そう。北アルプスに行くから!」
「それは、本格的な登山じゃないか。」
「別に、大槍の天辺に行こうと言う訳じゃないから、行ってもいいけどね。久しぶりだから・・・」
例によって、レイカの突拍子もない発言に、真意を測りかねながら、シャワーを浴びに行った。
僕は、ソレなりの山支度をしてからレイカと共に、たぶん烏丸家お抱えの運転手の運転する高級車で出発した。車は、港方面に向かっていた。
「山に行くんじゃないのか?」どこぞの戦闘ゲームにでも出てきそうな、コスチュームを着込んだレイカは
「空路を使う。」と言うと、地図ソフトで目的地の状況を確認しだした。
「そんな山の上に在るレストランなのか?」僕が聞くと
「一寸、寄り道をしないと、食材調達と言った所よ。」
車は、港近くに在るヘリポートで僕らを下すと、運転手が
「レイカ様、荷物の積み込みは終わっておりますので、気を付けて行ってらっしゃいませ。」そう言って僕らを送り出してくれた。ヘリは町並みを抜けてから、暫く山岳部を飛行して、アルプスの山並みが見え始めた頃、かなり深い谷合でホバリングし始めた。
「ここで、降りるわよ。」あっけなく言うと、僕にハーネスを装着しだした。
「降りるて・・・まさか此処から?」
「垂直下降ね。」造作もなく言いながら、あっと言う間に僕を抱えて、ヘリから深い谷の中腹にある絶壁のテラスの様な所に降り立った。
「どうだった?」
「死ぬかと思った。」
「そうじゃないわ、私に抱かれた感じわ。」
「そんな事、考えてる余裕無いだろうが!」
レイカは、ヘリを見送ると、地図ソフトを見せて
「ここは、回廊のほぼ中間点の広場よ。ここから、回廊を下った所で食材を採取し、その先に在るトンネルを抜けて、山岳列車に乗り込むのよ。いとも簡単そうに、レイカは説明したが、
「この先の回廊って、絶壁じゃないか!」
「いや、チャンと道はあるわよ。歩荷達が通って居たんだから。」僕は、ヘリから降ろされた、リュックを担がされ、ほぼ垂直な絶壁に在る、人一人がやっと進めるような細い道を歩き出した。二時間程そんな怖い道を歩くと、崖がえぐれた様な場所が有り、結構広い洞窟の様な場所にでた。
「今日は此処で泊まるわよ。」
「泊まる。ビバークでもするのか?」
「温泉付きだし、寝心地だって悪くないのよ。」レイカは僕の背負ってきたリュックから、エアーマットやら寝袋を取り出すと、ほぼ平らになっている岩畳の上に設置した。携帯食の食事を済ますと、辺りはすでに真っ暗で、人工的な明かりが無ければ、自分の鼻を摘ままれても分からに様な状況だった。紅茶を飲んだ後、
「温泉に行くわよ。大きな明かりはこれしか無いから、一緒に来て。」ランタンを手にしたレイカの後を恐る恐る付いて行くと、岩盤に人口的に作られた湯舟が在った。
「ここは、歩荷達が、ノミとハンマーで掘った湯舟よ。立派な温泉でしょう。時期によっては一寸温度調節が難しいけどね。」レイカはそう言いながら、湯舟に手を入れて、
「一寸熱いけど良い感じね。」そう言いながら、服を脱ぎだした。
「あなたも、さっさと入らないと、明日は早いんだから。」
湯舟は、二人が入ってもそれほど狭くは感じられない広さだったが、確かに一寸熱かった。
「何でこんな所知ってるんだ。と言うよりお前どんな訓練を受けてるんだ。ヘリからの降下と良い、山にも慣れているようだし。」
「まあー、そのうち説明してあげるわ。訓練は海外の機関よ。戦闘訓練も含めてね。」
「CIA関連か?」
「まあ・・・似たような物ね。あーそう言えば、あなたも関係してたわね。」僕は、無言のまま、此奴は本当に何者なんだと思いながら、留学時代に変な組織に拉致られて、変な研究をさせられていた事を思い返していたが
「あなた、私の裸を見て、欲情しないの?抱きたいて思わないの?」
「はあー、こんな所でか?この先、何が持ち請けているか分から無い状況で、そんな余裕は・・・」そんな言い訳じみた僕の言葉を無視するかの様に、レイカは下半身に手を伸ばしてきた。
「あら、まだ元気じゃないの。あの女に全部吸い尽くされたかと思ってたわ。」
「あの女?お前、明子の事知ってるのか?」
「あなたが、初めて抱いた女でしょ。私が初めてあなたに会った時に名乗った名前。」
「何で、吉山明子を知ってる?」
「私の弟の嫁だったもの。何時まで経っても子供を産まないから、離婚させたわ。ああ、それとあのマンション引き払うから、今回は、その下見も兼ねているの。」
「金持ちのボンボンて言うのは・・・」
「あの時、初めて会った時ね、あなたの反応は面白かったわね。抱いた女の事も覚えていないなんて。私がわざわざ酔っぱらって、当時の状況を再現してやったのに。」
「別に、好きで抱いたわけじゃない!成り行きだ。俺の親友に振られて俺の所に乗り込んできて・・・」そう言いながら、如何、まだ明子の事を全部思い出していないんだ、そう思うと、
「ああ何だか、めんどくさくなってきたな。」そう言ってから、レイカにキスをした。二人とも、クライマーズハイ状態もあって、情交に至るまでにはそう時間はかからなかった。
繋ぎ合わせてあった、寝袋の中で、裸で抱き合って眠ってしまっていた。朝方、冷えた背中の寒さで目を覚ますと、レイカは僕の腕の中で暖かそうに寝ていた。
最初のコメントを投稿しよう!