第8話 量子コンピュータに捕らわれた男 1

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第8話 量子コンピュータに捕らわれた男 1

その男は、頭部を奇妙な装置に繋がれて、ベットに横たわっていた。 「兄よ。」と麗佳がさり気無く言ったが、外観からしてもっと年老いた感じに見えて、 「随分、老けてるように見えるが。」との僕の言葉に、 「そうね、もう100歳以上だものね。」と返した麗佳の言葉に僕は驚いた。 「それなら、お前は、今何歳なんだ?」との僕の問いに 「女に年を聞くものじゃないわ。」とお決まりの返事が返ってきて、麗佳のクレゾール臭の謎が解けたような気がした。 「兄の能力は、量子エンタングルメントを操れる事よ。今は、こうして機械と繋がり、その先が世界中の幾つかの稼働中の量子コンピュータに繋がっているわ。」 「そんな事をして、お前たちは、何をしようとしているんだ?」 「べっに、何も、陰謀論みたいな事を想像しているのであれば、私たちは何もしていないわ。ただ、世界を宇宙を見ているだけよ。」 「宇宙を見ている?」 麗佳に連れてこられたこの地下施設、何でも頑強な片麻岩をくり抜いた縦と横に伸びるトンネルの様な構造物との事で、その一角の広場の様な所に、その部屋は在った。 「ここは、宇宙線や、ニュートリノの観測所。」と言いながら、大きなディスプレイに施設の案内図やら、観測結果の紹介やらを出しながら、 「私は、この施設の副所長をしてるのよ。と言っても名目だけだけどね。」事も無さげに麗佳の言葉に絶句している僕に 「あなたも理工系の人間なら、これから話す内容も多分理解できるとも思うけどね。」そう言いながら大画面に映し出される映像の解説を始めていた。  最初の映像は、近隣の銀河団と宇宙フィラメントと呼ばれる宇宙の大規模構造を示していた。その中にボイドと呼ばれる星の無い領域があり、そこから遣ってくる、ニュートリノやガンマー線の観測結果へと話が進み、特にガンマー線の中でも特別な波長を持つ観測結果が示され、それが何を意味しているかを麗佳が語り出した。 「この特別な波長のガンマー線は、在る条件でしか生まれないのよ。」と言いながら僕に見せた映像は、陽子が崩壊する様子を示す物で、パイ中間子から分裂した2個のフォトンつまりガンマー線であった。幾つかのボイドからの観測結果を示した後に、この施設で、ガンマー線を通さない壁(障壁)を備えた大規模観測器の結果を示しながら 「この宇宙域でも始まっているのよ。」 「陽子崩壊がか?一般の発表では、陽子の寿命は途轍もなく長く、宇宙の終焉よりも長いとの予想だろうが?」 「一般にはそう言われているは、確かに平均的にはそうなのだろうけど、でも最近の観測結果で、領域的に差がある事が分かったの。つまり、崩壊が早い場所と、遅い場所がある。そして、この領域は、早い方に属している。」 「何で、この結果を発表しないいんだ。」と言ってから僕は「そうか・・・それがブラックマンデーの理由か?」 「そうね、ある金持ちがこの情報をリークしてしまったのよ。で、あの結果ね。特に、クロッカスオリジンを使っていた金持ちには、効果覿面であったみたいでね。」 「つまり、改めて死の情報を入力された、乱数発生プログラムが発動したのか。」と僕は例のプログラムの内容を麗佳に掻い摘んで話すと 「そのプログラムは最後は如何なるの?」と聞いてきた。 「最後は、美しい花を描いて収束する。」 「ほー、地球文明もそんな風にして終わると良いわね終末戦争なんかに成らずにね。」 「終末戦争?」 「兄の予想だと、五分五分みたいだけど。」との麗佳の言葉に、寒気を感じながらあのプログラムをもう少し研究しておけば良かったなと後悔している自分が居た。
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