118人が本棚に入れています
本棚に追加
#182
――ブレイクは、ついさっきジャガーから送られてきた刑務所内のマップを見ながら、脱獄をしようとしている人間がいる方向へと向かっていた。
そのマップを見るに、脱獄を狙っているほうの生物血清は、囚人たちがいる監獄エリアからはかなり離れた位置に印されている。
すでに牢から出ているのだろう。
刑務所内のセキュリティーはすでに無力化し、おそらく動ける看守たちは、問題が起きたほうへと向かったか、囚人たちが騒ぎを起こさないように対処しているはずだ。
その騒ぎの隙をつけば、牢から出るくらいは簡単なことだろうとは推測できる。
「ここまで手の込んだことをやるってことは……フフフ……フハハハハッ!」
一体誰を脱獄させたいのかはわからないが、これだけ大掛かりなことをやるほどだ。
余程の人物なのだろうと、ブレイクはその口角を上げる。
「クズがクズを助けて、そのクズは結局クズに殺されんだよなッ!」
――その頃。ブレイクと別れて問題が起きたほうへと向かっていたジャガーとヴィクトリアは、目的地にたどり着いていた。
そこはこの監獄のセキュリティーの管理しているところだった。
二人が管理室に到着したときには、すでに何人かの看守が殺されており、出入り口付近には肉片となって飛び散った死体が転がっている。
ジャガーとヴィクトリアが警戒しながら中へ入ると、そこには――。
「ジャガーにヴィクトリアッ? まさか、キミたちも来ていたんですね」
エアラインとリーディンがいた。
エアラインのほうは二人に笑みを浮かべているが、リーディンは無愛想に振り向くだけだった。
ジャガーはどうして二人が監獄にいるのかを訊ねると、エアラインが二人の前に出る。
「実は生物血清に捕まってしまいましてね。この混乱を利用して逃げたんですよ」
それからエアラインは、自分たちが敵に捕まっていたということを話し始めた。
二人がイーストウッドからの命を受けてマンションへと行ってみると、そこには生物血清が待ち構えており、抵抗する隙もなく捕らえられてしまった。
だが、幸運にも監獄に侵入するために頭数が必要だった生物血清は、エアラインらを拘束したまま連れ去る。
そして、周りからは見えないように自由を奪われ、ここまで連れて来られたのだという。
「すぐにでも組織と連絡を取りたかったんですけど、何せここは刑務所。通信手段が確保できなくて困っていたんですよ」
「そっかぁ。なんにしても、二人が無事で何よりだったよぉ」
ホッと胸を撫で下ろしたヴィクトリアは、無愛想に立っているリーディンに抱きついた。
ブレイクよりは先輩とはいえ、まだ新人といっていいリーディンにしたその行為は、ヴィクトリアが彼女のことを気に入っているということがわかる。
まだ付き合いが浅いというのに、随分と馴れ馴れしい態度だ。
その抱きつかれたリーディンのほうは、しかめっ面をしながらも特に抵抗しないままだった。
まるでそこらにいる不機嫌そうに通行人を睨む野良猫のような顔をしているリーディンだったが。
おそらく何度もあったことなのだろう、リーディンはヴィクトリアに抱きつくなといっても無駄だということがわかっているようだった。
「話はそれだけか?」
そんな二人を気にせずに、ジャガーがエアラインに迫る。
何か威圧的な態度の彼に対し、エアラインは困った表情を向けている。
そして、ジャガーは拳銃タイプの電磁波放出装置――オフヴォーカーを彼に向けた。
「ちょ、ちょっと待ってジャガーッ⁉ 冗談はやめてくださいよ」
「冗談? オレは嘘をつくのも他人をからかうのも大好きだが、人に銃口を向けてふざけるようなことはしねぇよ」
最初のコメントを投稿しよう!