118人が本棚に入れています
本棚に追加
#183
当然オフヴォーカーの銃口を突きつけられたエアライン。
ジャガーは何かの冗談かという彼に向かって、自分はふざけていないことを伝えた。
消えてしまった仲間と、再び無事に会えたという安堵の空気から一転。
看守の肉片が飛び散った、血塗れの場に相応しい雰囲気へと変わる。
「えッ!? なにしてんのジャガーッ!?」
ヴィクトリアが二人の間に割って入ろうとしたが、傍にいたリーディンに羽交い絞めにされてしまう。
それでもヴィクトリアは無理やり抜けようともがいたが、リーディンにガッチリと掴まれている状態では身動き一つできない。
「もうッ! リーディンまでなんなのよッ!」
「いいからじっとして。あなたが入るとややこしくなる」
「なによそれッ!? ややこしいのはジャガーとリーディンでしょッ!? なんで仲間のエアラインに銃を向けるんだよッ!」
リーディンはヴィクトリアの叫びに返事をしなかった。
それは、きっと何をどう答えても、彼女が喚き散らすのがわかりきっているからだ。
エアラインはヴィクトリアを押さえつけているリーディンを見てから、ジャガーのほうを視線を向ける。
「そうですか……最初から彼女を使ってジブンのことを探らせていたんですね」
「ご名答。その通りだ」
ジャガーは、先ほどとは別人のような冷たい表情でいうエアラインに向かって、ニヤリと笑みを浮かべる。
それからエアラインは両手を上げ、いつから自分のことを疑っていたのかを訊ねた。
「さあねぇ。オレはただ上からの指示通り動いただけだ。たぶん、お前の裏切り行為もそうだろ?」
「食えない人だ……。あなたは出会ったときからそういう人でしたよ。だから、ずっとあなたのことが嫌いでした」
「残念だ。オレはお前ことは結構気に入ってたんだぜ。なんだかんだいって一緒に潜った修羅場も、両手の指じゃ数えきれないくらいになっていたからな」
「よく言いますよ。あなたが組織の人間を信用していたことなんて一度もないでしょう。全く、相変わらず口を開けば嘘ばかりですね」
ヴィクトリアは二人の会話を聞いて、エアラインが敵のスパイだったことに気が付いた。
そしてどうやらジャガーのほうは、以前から彼のことを疑っていたようだ。
おそらくリーディンがエアラインと組んでいたのも、メディスンが意図的にそうするようにしていたのだろう。
組織に入ったばかりで、バイオニクス共和国に恨みを持つ彼女なら仲間に誘いやすい――。
そう考えると思っていたのだ。
「あなたにはすっかり騙されましたよ、リーディン。でも、共和国をよく思っていないあなたが、何故ジブンたちにつかなかったのか、その理由を聞いてもいいでしょうか?」
「たしかにアナタのいう通り、ワタシは共和国のことは大嫌いよ。でもね、メディスンは言ったわ。もし言うことを聞くなら、ストリング帝国に行かせてやるってね」
「ストリング帝国へ? 知らなかったな、あなたが帝国に行きたがっていたなんて」
「別に帝国のことだって好きじゃないわ。ただ、あの国にはワタシの大事な人がいる……。だから、帝国とコネがあるメディスンならワタシの望みを叶えられるってわけ」
「なるほど、それで納得できました」
エアラインが両手を上げたままクスリと笑うと、ジャガーが口を開く。
「雑談はその辺して、お前たちの目的を教えてもらおうか? 何故監獄に侵入した?」
「それよりも、どうしてジブンが組織を裏切ったのか、聞きたくないんですか?」
「悪いが興味ないね。それは調べるのはオレの仕事じゃない。メディスンさんの仕事だ」
ジャガーの返事を聞いたエアラインは、力なく肩を落とすと「本当に冷たい男だ」と呟いた。
そして、すでに観念しているのか。
彼の所属する組織――生物血清が何故監獄に来たのかを話し始める。
「ジブンたちがここへ来た目的は、ある人物を脱獄させるためですよ」
最初のコメントを投稿しよう!