#2

1/1
119人が本棚に入れています
本棚に追加
/949ページ

#2

「コホン。まずは勘違(かんちが)いして悪かったわ」 目覚(めざ)めた後――。 どういう状況(じょうきょう)だったのかを理解(りかい)したサイドテールの少女は、(すわ)っているミックスを見下ろしていた。 だが、それでもまだ少女は警戒(けいかい)していそうだ。 表情(ひょうじょう)強張(こわば)らせたまま、彼のことを見ている。 「……それはいいけど。どうしてうちのベランダで(たお)れてたの?」 「一応(いちおう)自己(じこ)紹介(しょうかい)をしておく。あたしはジャズ、ジャズ·スクワイア」 「いや……あのさ……」 「ほら、あたしも名乗(なの)ったんだからあんたも名乗りなさいよ」 「……(おれ)の名前は、ミックスです……」 ミックスは思った。 このミリタリールックの少女は人の話を聞いていないのだろうか。 どうして他人(たにん)の家にいたのかを(たず)ねたのに、いきなり自分の名を名乗り出したのだ。 礼儀知(れいぎし)らずというかなんというか。 だが、彼女に言い返せないミックスは、その(するど)いつり目を見れずにそらしてしまう。 (ずいぶんマイぺースな子だなぁ……。まあ、相手の名前を(おぼ)えるのって大事だけど……) そう、(とお)い目をしているミックスのことなど気にせずに、ジャズと名乗った少女は言葉を続ける。 「あまり(くわ)しいことは話せないけど。とある事情(じじょう)があって、とある問題(もんだい)解決(かいけつ)するために、とある目的(もくてき)があってあんたの家にいたんだ」 「うん……。詳しく話せないだけあってとあるが多いね……」 「しょ、しょうがないじゃない!? 話せないことなんだから!」 (あわ)てて言い返すジャズ。 それを見たミックスが(あき)れていると、突然(とつぜん)彼女が(ゆか)にヘナヘナとへたり()む。 心配(しんぱい)したミックスが()()ると、彼女の身体からグゥ~という音が()った。 その音を聞かれたジャズは、へたり込んだまま顔を真っ赤にしていた。 「なんだ、お(なか)がすいてたんだ」 ミックスはそんな彼女にニッコリと微笑(ほほえ)んだ。 それから台所へ行くと冷蔵庫(れいぞうこ)を開け、中に入れてあった食材(しょくざい)を出し始める。 ジャズはミックスが一体何をしようとしているかわからないようで、(ほう)けた顔をして彼のことを見ていた。 「なにしてんの、あんた?」 「見てわかんないの? これからキミのご飯を作るんだよ」 ミックスはまず電子レンジに用意していたソースを入れ、(なぜ)に水を入れ沸騰(ふっとう)させる。 そして、次にまな板を出して野菜(やさい)を切り、()かしていた水がボコボコと鳴り出すとパスタを()で始めた。 ミックスの動作は(あき)らかにやり()れている。 しかも実に楽しそうに料理をする彼に、ジャズは思わず見惚(みと)れてしまっていた。 「はい完成。()()のオリジナルのソースを使ったパスタとサラダだよ」 ミックスは料理をテーブルへと置くと、ジャズに差し出した。 出来立(できた)てのパスタから湯気(ゆげ)が上がっていて、さらにチーズの(にお)いが食欲(しょくよく)刺激(しげき)してくる。 「こんな簡単なものしか作れないけど、よかったら食べて」 「食べちゃっていいの? あんたの(ぶん)でしょ、この料理?」 ジャズがそう訊ねるとミックスはコップに水を(そそ)ぎ始めた。 「いいよいいよ。だってジャズはお腹()っているんでしょ? 俺はいま(こま)るほど空腹(くうふく)じゃないし」 「だけど……」 「いいからいいから。それともパスタは(きら)いだった?」 笑顔のミックスに訊かれ、何も言い返せなくなったジャズ。 彼女はフォークを手に取ると、(もう)(わけ)なさそうパスタに手をつけだした。 「うぅんッ!? なにこれ……美味(おい)しい……」 「でしょ? このパスタソースは兄さんと姉さんが長年かけて完成させたものなんだよ。そこら(へん)のパスタソースと同じにしてもらっちゃ困るね」 「あんたのお兄さんとお姉さんって、パスタソースを作る仕事をしてるの?」 「いや、(ちが)うよ。二人とも、料理は趣味(しゅみ)だって言ってた」 趣味にしてはずいぶんと本格的(ほんかくてき)(あじ)のソースだ。 ジャズは料理や食べ物に(うと)いが、このパスタソースが、とても普通(ふつう)の家庭に出てくるようなものではないと思っていた。 「美味しいならよかった。それじゃ、()める前に食べちゃいなよ」 「う、うん……。では、(あらた)めていただきます」 ミックスにそう言われたジャズは、ひとまず空腹を()たすことにするのだった。
/949ページ

最初のコメントを投稿しよう!