#3

1/1
前へ
/949ページ
次へ

#3

それからジャズは、パスタを食べながら自分のことを話し出した。 ミックスはそんな彼女の態度(たいど)に、やはり美味(おい)しいものは偉大(いだい)だなと、笑みを()かべる。 「あんた……人がせっかく話してやろうと思っているのに何を笑ってんの?」 「いや~、やっぱ食事って大事だなぁってさ」 「(へん)(やつ)……」 気を取り(なお)し、ジャズが口を開く。 自分が今二人がいる国――バイオニクス共和国(きょうわこく)住民(じゅうみん)ではないこと。 とある国の軍人(ぐんじん)であること。 この国へは友人に会いに来たことを、早口(はやくち)にさらに簡素(かんそ)()べた。 「えッ!? 軍人!? だからミリタリーっぽい格好(かっこう)しているのか!?」 「これは私服(しふく)」 「えッ!? あ、でもさ。ジャズは軍人なんだよね?」 「さっきそう言ったでしょ。何度も同じことを聞かないでくれる」 ミックスは、普段(ふだん)から軍服(ぐんぷく)を着る軍人が、私服もミリタリールックなのはどうなのだろうと、(こころ)の中で思う。 だが、それを口にするとまたジャズの(するど)いつり目に(にら)まれると考え、(だま)っていた。 (なんか、マイペースな子だと思っていたけど。それ以上に(おこ)りっぽいなぁ、この子……) そして、なるべく彼女の機嫌(きげん)(そこ)ねないように()()うのであった。 そして、食事を()えたジャズは(ゆか)から立ち上がり、ドアのほうへと向かっていく。 「“とある”ところへ行くつもりなの?」 ミックスに(たず)ねられたジャズの足が止まる。 だが、彼女はけして振り(かえ)ることはなく、そのまま返事をした。 「一応(いちおう)(れい)は言っとくわ。ありがと……」 「一応って言葉が好きだよね」 ミックスの言葉を聞いたジャズは(にぎ)っていた(こぶし)(ちから)()めた。 (べつ)に、こっちだって好きなわけじゃない。 だか、謝罪(しゃざい)感謝(かんしゃ)他人(たにん)(たい)する礼儀(れいぎ)だろうと言いかけて止める。 そして、再び足を動かそうとした。 「ねえ、ひとりで大丈夫(だいじょうぶ)? この国へは初めてきたんでしょ? (おれ)なんかでよかったら力になるけど」 「いい、出てくよ。見ず知らずのあんたまで()き込めないからね」 部屋をこんなにしておいて今さら――。 と、ミックスはそう思った。 だが、やはり彼女が不機嫌(ふきげん)になると思い、そのことは(だま)っていた。 「巻き込めないって……さっき言ってた友だちの問題(もんだい)にってこと?」 「あんたにそこまで説明(せつめい)する理由(りゆう)はない」 「でもさ。ここを出て、どっか行く当てでもあるの?」 「だからさっき言ったでしょ? あたしは見ず知らずの(やつ)を巻き込みたくないんだよ。あたしに(かか)わったせいで、あんたも死ぬかもしれないんだ。何度(なんど)も言わせるな!」 「ちょっと待ってよ! 死ぬとか物騒(ぶっそう)なこと聞いたら、余計(よけい)(ほう)り出せないよ!」 ミックスが声を()り返すと――。 ジャズは彼を小馬鹿(こばか)にするような笑みを浮かべた。 「じゃあ、あんたにあたしと死ぬ覚悟(かくご)があるっていうの?」 彼女は笑みを浮かべたまま言葉を続けた。 勝手(かって)に部屋に侵入(しんにゅう)し、しかも別の国から来た初対面(しょたいめん)の人間のために――。 あんたは(いのち)()けられると言うのかと。 「半端(はんぱ)(やさ)しさはいらない。偽善(ぎぜん)はもっといらない」 「俺は別に……」 「パスタ……ありがと……。とっても美味しかったよ。もし生き()びたら、お(れい)(かなら)ずするから」 そして、ジャズは扉を開けて部屋を出て行った。 ミックスは彼女を追いかけて家の外へとまで出る。 「(こま)ったことがあったら、いつでもここに来ていいからね!」 だが、ジャズの姿(すがた)はもうすでに(とお)く。 ミックスは、彼女に(とど)いているかわからない言葉を投げかけるのだった。
/949ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加