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#3
それからジャズは、パスタを食べながら自分のことを話し出した。
ミックスはそんな彼女の態度に、やはり美味しいものは偉大だなと、笑みを浮かべる。
「あんた……人がせっかく話してやろうと思っているのに何を笑ってんの?」
「いや~、やっぱ食事って大事だなぁってさ」
「変な奴……」
気を取り直し、ジャズが口を開く。
自分が今二人がいる国――バイオニクス共和国の住民ではないこと。
とある国の軍人であること。
この国へは友人に会いに来たことを、早口にさらに簡素に述べた。
「えッ!? 軍人!? だからミリタリーっぽい格好しているのか!?」
「これは私服」
「えッ!? あ、でもさ。ジャズは軍人なんだよね?」
「さっきそう言ったでしょ。何度も同じことを聞かないでくれる」
ミックスは、普段から軍服を着る軍人が、私服もミリタリールックなのはどうなのだろうと、心の中で思う。
だが、それを口にするとまたジャズの鋭いつり目に睨まれると考え、黙っていた。
(なんか、マイペースな子だと思っていたけど。それ以上に怒りっぽいなぁ、この子……)
そして、なるべく彼女の機嫌を損ねないように振る舞うのであった。
そして、食事を終えたジャズは床から立ち上がり、ドアのほうへと向かっていく。
「“とある”ところへ行くつもりなの?」
ミックスに訊ねられたジャズの足が止まる。
だが、彼女はけして振り返ることはなく、そのまま返事をした。
「一応、礼は言っとくわ。ありがと……」
「一応って言葉が好きだよね」
ミックスの言葉を聞いたジャズは握っていた拳に力を込めた。
別に、こっちだって好きなわけじゃない。
だか、謝罪と感謝は他人に対する礼儀だろうと言いかけて止める。
そして、再び足を動かそうとした。
「ねえ、ひとりで大丈夫? この国へは初めてきたんでしょ? 俺なんかでよかったら力になるけど」
「いい、出てくよ。見ず知らずのあんたまで巻き込めないからね」
部屋をこんなにしておいて今さら――。
と、ミックスはそう思った。
だが、やはり彼女が不機嫌になると思い、そのことは黙っていた。
「巻き込めないって……さっき言ってた友だちの問題にってこと?」
「あんたにそこまで説明する理由はない」
「でもさ。ここを出て、どっか行く当てでもあるの?」
「だからさっき言ったでしょ? あたしは見ず知らずの奴を巻き込みたくないんだよ。あたしに関わったせいで、あんたも死ぬかもしれないんだ。何度も言わせるな!」
「ちょっと待ってよ! 死ぬとか物騒なこと聞いたら、余計に放り出せないよ!」
ミックスが声を張り返すと――。
ジャズは彼を小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「じゃあ、あんたにあたしと死ぬ覚悟があるっていうの?」
彼女は笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
勝手に部屋に侵入し、しかも別の国から来た初対面の人間のために――。
あんたは命を懸けられると言うのかと。
「半端な優しさはいらない。偽善はもっといらない」
「俺は別に……」
「パスタ……ありがと……。とっても美味しかったよ。もし生き延びたら、お礼は必ずするから」
そして、ジャズは扉を開けて部屋を出て行った。
ミックスは彼女を追いかけて家の外へとまで出る。
「困ったことがあったら、いつでもここに来ていいからね!」
だが、ジャズの姿はもうすでに遠く。
ミックスは、彼女に届いているかわからない言葉を投げかけるのだった。
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